フェラーリ 488 スパイダー、イタリアンスポーツカーの最高峰

フェラーリといえば自然吸気エンジンで、大音量の甲高く澄み切った音がお約束だったが、ターボエンジンを採用した488 スパイダーは低く、野太い音を立て、これがじつに男っぽく魅力的なのだ。この排気音の変化を嘆くフェラーリファンもいるかもしれないほどの違いだ。このクルマでゴルフに行くことは想像しにくいかもしれない。なぜなら行き帰りの運転があまりにも楽しすぎて、ゴルフを忘れるほどだからだ。その新しい音はもちろん、引き締まったボディからは想像もつかないほど、快適でしなやかな乗り心地も約束してくれる。

青空を思わせる「ブルーコルサ」というボディカラーに塗装されたフェラーリ 488 スパイダーを、石造りのクラブハウス前に止める。イタリア人はオープンカーのことを“地を這うように低い”という理由から「スパイダー(蜘蛛)」と呼ぶのだ。ルーフを格納した488の姿はロー&ワイドで、まさにスパイダーだ。先代の458に続き、ソフトトップではなくリトラクタブルハードトップが採用された。クローズド状態から車内のスイッチを押すと、ルーフが乗員の背後を軸に180度反転し、エンジンの上に格納される。

説明不要のイタリアンスポーツカーメーカー、フェラーリは、ラインナップのすべてがスポーツカーという稀有なメーカーだ。世の中で人気があり、売れば儲かると言われるSUVをラインナップせず、その予定も噂もないという徹底ぶりにしびれる。飛び系アイアン真っ盛りの現代において、軟鉄鍛造の小顔マッスルバック・アイアンしかつくらないゴルフギア・ブランドのような頑なさが魅力だ。

抑揚あるスタイリングは「何をやってもいい」と言われたデザイナーが、美しさだけを優先して好き放題に削ったり盛ったりしたように見えるが、実際にはエアロダイナミクスをとことん追求した理詰めデザインなのだ。ボンネットフードの前端両脇がくぼんでいるのも、ボディサイドに大きなエアインテーク(空気取り入れ口)が開いているのも、リアの下の方に巨大なディフューザー(整流板)が付いているのも、すべては空気抵抗をできるだけ減らしたり、ラジエターやインタークーラーに効率よく風を当てたり、ボディそのものを地面に押し付けたりするため。いわば究極の機能美だ。

リアに回ってエンジンフードを開ける。ヘッドが赤く結晶塗装されたエンジンが見えるのだが、地面に置いたのかというくらいに低く、なおかつ車体中央に近い位置にあることに驚かされる。エンジンがこんなに低く置かれた乗用車をほかに見たことがない。自動車パーツの中で最も大きく重いエンジンは、挙動やパフォーマンスを考えればなるべく車体中央の低い位置に置くのが理想だが、さまざまな制約から車体前方の高い位置に置かざるを得ないクルマがほとんどだ。だが、フェラーリは乗員2人が過ごすスペースさえ確保すれば、あとは走り優先のレイアウトが許されるのだ。

先代の458が4.5リッターV8自然吸気エンジンを搭載していたのに対し(だから車名が458)、488に搭載されるのは3.9リッターV8ターボエンジンだ。488の車名は1気筒当たりの排気量からきている。フェラーリはモデルチェンジの度に排気量を増加させてきた。ここへきて減少したのはフェラーリがひよったわけではなく、ターボエンジンを採用し、最適な排気量を選んだのだ。ターボエンジンを選んだのは、最新の技術では、ターボのほうがハイパワーを実現するためにも、燃費を向上させるためにも、排ガスをよりクリーンにするためにも有利だから。マッスルバックだって打ちやすいに越したことはないのと同じで、スーパーカーでも排ガスがクリーンで燃費がよいに越したことはないのだ。

新エンジンは最高出力670ps/8000rpm、最大トルク76.5kgm/3000rpmと、458よりも大幅パワーアップを果たした。パワーが十分なのは言うまでもないが、このエンジンのトップエンドの性能を味わうことができる公道はこの国にはない。ただし、カミソリのように鋭いレスポンスは運転する度、特に飛ばさずとも堪能することができる。アクセルペダルに載せた右足のほんのわずかな動きにも正確に反応するのだ。ターボエンジンは構造上ターボラグ(反応遅れ)がどうしても存在し、絶対的パワーに優れるものの、レスポンスは、よくできた自然吸気エンジンに劣るというのが一般論。だが488スパイダーを走らせる限り、ターボラグはあまりに軽微でそれを感じさせない。

「488 スパイダー」は低く、野太い音を立てることは前述したが、もう一点、市街地をゆっくり走らせている時の排気音にも大きな変化があった。488は深く踏まない限りとても静かなのだ。それはもうどこかのプレミアムサルーンかと思うくらいに静か。かつてフェラーリは渋滞中に何台か離れた位置にいてもすぐに気づくほどの音を立てていたが、488なら隣にきても音では気づかないだろう。中にはそれを残念に思う人もいるかもしれない。ただし、静かになれば気兼ねなく日曜早朝に出かけることもできるので、ゴルファーにとっては福音のはずだ。

この姿から、足まわりは相当に締め上げられ、跳ねるようなハードな乗り心地を想像するかもしれないが、実際には488スパイダーの乗り心地は快適で、路面の不整部分などを通過しても内蔵がゆすられるようなことは一切ない。いっぽうで、いくらペースを上げ、ハードに走らせたとしても、ソフトすぎて心もとないといったことはない。これは磁性流体を使ったダンパーによってダンピング量を連続可変できる「マグネティック・ライドコントロール・サスペンション」によるもので、状況に応じて乗り心地は自動的に、しかも瞬時にハードにもソフトにも変わる。サーキット走行からデートまで満足できるということだ。

残念ながら488スパイダーのラゲッジスペースは、キャディバッグを収められる形状でもなければ、それだけの容量もない。じゃぁどうするか? 助手席に寝かせればいいじゃないか! 偶然このシートは座面の中央がえぐれていて、寝かせたバッグが左右に揺れるのを防いでくれる。それでは着替えの入ったボストンバッグはどうする? こう見えてこのクルマのフロントには容量230リッターのラゲッジスペースがあり、機内持ち込みサイズのスーツケース2個とボストンバッグ1個くらいなら楽々飲み込むので、そこへ入れればいい。

ただ、このクルマでゴルフへ行くことをうまく想像できない。それはなぜかというと、運転が楽しすぎてゴルフ場を通り過ぎてしまいそうだし、ラウンド中には帰りのドライブが楽しみでゴルフに集中できないかもしれないからだ。あまりにクルマに意識が集中するため、ゴルフに適したクルマとはいえないのかもしれない。それほど魅力的なのだ。このクルマならゴルフの予定を急遽取りやめて、一日中ドライブしたって後悔しないかもしれない。だからあえて、このクルマでゴルフに行くことを提唱する。ゴルフを超える魅力をもつクルマなんて、滅多にあるもんじゃない。ゴルフの行き帰りのドライブ、そしてラウンド。つまり、楽しみ倍増ということなのだ。

Ferrari 488 Spider
車両本体価格:34,500,000円(税込)

  • ボディサイズ|全長4,568×全幅1,952×全高1,211mm
  • ホイールベース|2,650mm
  • エンジン|3.9リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
  • 排気量|3,902cc
  • 最高出力|670ps(492kW)/ 8,000rpm
  • 最大トルク|76.5kg・m(760N・m)/ 3,000rpm
撮影協力:

bruder.golfdigest.co.jp

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