歴代の007、ジェームス・ボンドの愛車であり、イギリスの伝統的クラフトマンシップを現代に伝えるアストンマーティン。同社のフラッグシップモデルたるヴァンキッシュSは、アルミ・シャシー、カーボン・ボディといった最新の技術を内包しつつ、職人の手仕事によって生み出されるグランドツアラーというスタイルを継承している。
自動運転の時代が間近に迫り、自動車の動力は化石燃料から電力へとシフトしていく気配が濃厚になっている。そんな消極的な時代だからこそ、連綿と続く様式美に脚光が当たることもある。イギリスが誇る貴族的なスポーツカーメーカー、アストンマーティンである。同社のフラッグシップ・スポーツカーとして刷新されたヴァンキッシュSは6リッターもの排気量を誇るV12エンジンを搭載したグランドツアラーであり、自動車が特権階級の乗り物だった時代を彷彿とさせてくれる。一方、時代の最先端を行くアルミ接着のプラットフォームやカーボンコンポジットを多用したボディパネルは、イギリスという国が歴代F1マシーンの8割以上を生み出してきたモータースポーツ大国である事実を思い起こさせてくれる。
今回新たにデビューしたヴァンキッシュSは、2004年にデビューしヒット作であるDB9を時間を掛けて煮詰めあげた最終型といえる。新型のみ脚光が当たる大衆車の世界とは対照的に、アストンマーティンのような古豪はモデルライフが長く、“熟成”にこそ価値を見出すオーナーが多い。ヴァンキッシュSの最高出力は588ps、最高速は323km/hにも達するが、アストンのオーナーたる者は“ノーブレスオブリージュ(高貴なる者の義務)”何たるかを理解しており、性能をいたずらにひけらかそうとはしない。未曽有の大パワーでゆったりとワインディングを駆ける品性、ヴァンキッシュSは絶えずドライバーに「紳士たれ」と訴えかけてくるのである。
アストンマーティンは1913年の創業当初からハンドビルトによる少量生産を伝統としており、その点では自動車というよりビスポークで仕立てるスーツや革靴といった男性的な趣向品に近い。とはいえグランドツアラーとしてのきめ細かな配慮も一流であり、ヴァンキッシュSはバング&オルフセンのオーディオシステムや最高級の皮革を贅沢に使用したインテリアなど、貴族的な室内空間の創出にも余念がない。自動車の世界観がエコ一辺倒に大きく変化しようとしている昨今、敢えてアストンマーティンを愛車とする。それは、時代に流されることのない大人の静かな主張と言えるのかもしれない。
ASTON MARTIN VANQUISH S
車両本体価格:未定
問い合わせ先
アストンマーティン・アジア・パシフィック
TEL:03-4360-9243http://www.astonmartin.com/ja/cars/the-new-vanquish