やることすべてが新しい、テスラ「モデルS」

テスラ・モーターズは、2016年2月に社名から「モーターズ」を取ってテスラとした。EV(電気自動車)メーカーとして設立された同社だが、現在はEVのみならず、バッテリーやソーラーパネルなども製造する総合テック企業へと変化したからだ。化石燃料への依存から脱却するために有効なことはなんでもやるというイーロン・マスクCEOの決意がいろいろなかたちで見えてきた。この度、同社のモデルSが進化したので報告したい。

現在のテスラのラインナップは、4ドアセダン(正確には5ドアハッチバック)のモデルSと5~7人乗りSUVのモデルXの2種類。両車は共通の車台、パワートレーンを用いて開発されており、車重や空気抵抗の違いによる加速力の違いはあるが、動力性能はほとんど同じと考えて問題ない。早い話、クルマの重さに対して十分以上の力強さをもっているため、どっちもものすごく速いというわけだ。この度、両モデルにP100Dという新しいモデルが追加された。価格は1767万9000円(モデルS P100D)。

このうち、モデルS P100Dを軽井沢でテストした。「P」は強力なモーターやインバーターを意味するパフォーマンスを、「100」はフロアに敷き詰められたリチウムイオン・バッテリーの容量が100kWhであることを、そして「D」はデュアルモーター、つまり前後の車軸に1個ずつモーターが設置され4輪を駆動することを意味している。P100Dの最高出力は611ps、最大トルクは967Nm。化石燃料を燃やすエンジンを搭載するハイパフォーマンスモデルにもこれに匹敵するスペックを誇るモデルがあるが、それらは例外なくモデルSよりもずっと高価だ。

加えて、発進と同時に最大トルクに達し、アクセル操作にクルマが反応するまでのレスポンスが圧倒的に速いEVならではの特性によって、スタートダッシュの鋭さではモデルSにかなう市販車はない。なにしろ一般的に発進してから100km/hに達するまでに要する時間が5秒を切ったら相当パワフルなクルマとされるなかで、モデルSはわずか2.7秒だ。いったいどれくらい速いのか。発進加速を試してみた。

その結果は呆れるばかり。ステアリングホイールをしっかりと握ってからアクセルペダルを右足で床までグイッと踏むと、背中を巨人に蹴られたような衝撃に見舞われ、クルマが怒涛の加速を始める。クルマは一瞬で先へ行くのに、意識だけはスタート位置に置き去りにされたような感覚だ。どういう尺度を当てはめたとしても、市販車にこれ以上の速さは必要ない。途中で変速がない加速は恐ろしくスムーズだ。

もちろん、ジェントルなアクセル操作をすれば挙動もジェントル。当然ながら走行中にエンジンの音はせず、車内にはタイヤが発するロードノイズがわずかに入ってくる程度。エンジン、トランスミッションという嵩張るものが存在しないため、車内のレイアウトは自由度が高く、前席、後席ともに広々としているほか、ラゲッジ容量は750リッターを誇る。ラゲッジは凹凸の少ないスクエアな形状で、キャディバッグを複数積載するのに適している。リアハッチの開口部が大きいため荷物の出し入れも楽だ。通常のクルマならエンジンが入っているフロント部分にも84リッターのラゲッジスペースが確保されている。カタログ上の航続距離(一度の充電で走ることができる距離)は613Km。エンジンを搭載するクルマの燃料と同じで、実際に走行できるのはこの7~8割といったところだろう。

モデルSはスタートダッシュが速いだけの“直線番長”ではない。生産の工程が何度も見直されているのだろう、ボディ剛性はテスラが世に登場した当初よりも確実に上がっている。不整路面を走行してもボディのどこかがシェイクするようなことはない。エアサスによって乗り心地はどの速度域でも快適な一方、コーナーの連続を駆け回るような場面ではしっかりと踏ん張るような安定感も持ち合わせている。安楽な走りでもスポーティな走りでも、常にドライバーが望む特性であり続けるのはさすがだ。

モデルSにもモデルXにも、最先端の自動運転技術が備わる。設定した速度の範囲内で先行車を追従する、いわゆるアダプティブクルーズコントロールはもちろん、車線を維持すべくステアリングをアシストしてくれる機能も付く(現時点ではドライバーがステアリングから手を離すとキャンセルされるようになっている)。加えて、車両には現在まだ使われていない8個のカメラをはじめとするさまざまなセンサーが搭載されている。将来新しいソフトウェアを配信した際に使い、より完全に近い自動運転を実現するためだ。デジタルガジェットのように、ソフトウェアアップデートによって買った後もクルマが進化するというわけだ。

テスラはこれまでスーパーチャージャー(全国に14ヶ所あるテスラ専用の超急速充電器)による充電を無料にしてきたが、2017年以降に生産されたモデルからは年間400kWhまで無料、それを超えると1分32円、もしくは16円が課金されるようになった。また昨年末から充電が完了してもスーパーチャージャーからクルマを移動させないでいると1分43円が課金されるようにもなった。全国にテスラ車が増えてきたため、充電済みのクルマが居座り、後からきたユーザーが充電できない問題が深刻化する前に、テスラが講じた対策だ。面白いのは、テスラはこの対策について「この先、充電完了後のクルマが(ユーザーが動かさなくても)自動的に別の場所へ移動するようになるまでの措置」だと言っていること。この会社がやろうとしていることはいちいち新しく、面白い。

TESLA MODEL S P100D
車両本体価格:17,679,000円(税込)

  • ボディサイズ|全長4,979×全幅1,950×全高1,450mm
  • ホイールベース|2,960mm
  • 最高出力|611ps
  • 最大トルク|967N・m
  • Text by Satoshi Shiomi

bruder.golfdigest.co.jp

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テスラ
フリーダイヤル:0120-982-428https://www.tesla.com/jp/

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