電動になっても薫り続けるジャガーネス ジャガー「I-PACE」

ジャガーは再びいい時代を迎えようとしていると言えば、「なぜ?」と首を傾げる人がいるかもしれない。21世紀に入って人気はSUVに傾き、同グループ内で勢いのあるランドローバーに圧されがちだからだ。だが、90年代のジャガーに憧れたことがある人ならば、昨今のブランドの立ち位置もまんざらではないと思うはず。かつての日本におけるジャガーといえば、60年代にデザインされた地を這うような4ドアセダン「XJ6」に代表される格好良さと、あまり見かけることのない希少性とが相まったブランドで、あえてドイツ車に背を向けるような粋人たちに支持されていた。

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ジャガーは、獲物に飛びかかるネコ科の動物を思わせるスタイリングをしたモデルが多く、“ネコ脚”といわれる独特のしなやかさを備えた乗り心地が特徴的だ。同社のウェブサイトには「オールエレクトリック オールジャガー」と記されており、あらゆる面で整合性の高いブランドなのだと思う。今回、マイナーチェンジした「I-PACE」をドライブしていて、あらためてジャガーの良さを再認識させられた。スタイリングは一般的なクロスオーバーSUVよりも低く、室内の雰囲気は昼間だというのにほの暗くて色気にあふれている。一方、乗り心地はいうまでもなく、最新の電子制御エアサスペンションを生かした「ネコ脚」だった。プレミアムでありながら遊びゴコロも忘れない、スポーツカーだがラグジュアリーさも共存している。電動モデルとなったことで、よりジャガーの個性が研ぎ澄まされた印象だった。

電動化に舵を切ったタイミングはヨーロッパのプレミアムブランドとしては非常に早かった。2018年に“エレトリックパフォーマンスSUV”と銘打ったI-PACEをデビューさせ、翌年にはワールド・カー・オブ・ザ・イヤーやワールド・グリーンカー、そしてワールド・カー・デザインという3つの栄誉を獲得した。そして昨年後半に初めてのマイナーチェンジを行い、MY2024(2024年モデル)として発表した。

特徴は、これまでグリル状だったフロントが真っ平なシールドタイプに変更されたこと。BEV(電気自動車)もバッテリーの冷却は必要だが、ICE(内燃エンジン)モデルのように冷却水の温度を下げる大きな面積のラジエーターは必要ないので、グリルは形骸化されている例が多い。今回、顔の中心部の印象が大きく変わったことで、新しさを醸し出すことに成功した。 プレスリリースによれば、顔以外で大きく変更した点はなさそう。日本に導入されるモデルの仕様も絞られており、ボディカラーはアイガーグレイとサントリーニブラック、そしてオストゥーニパールホワイトの3色、室内はエボニー1色で展開される。グレードはR-DINAMIC HSEのみで、オンライン販売もスタートするという。

438km(WLTCモード)の一充電走行距離や前後2モーター(AWD)の駆動系、400psの最高出力といったスペックに変更はなかったものの、ドライバビリティは秀逸で、快適なドライビングが楽しめる。おそらくこれまで細かいブラッシュアップが繰り返されてきたはずだが、それが今回のマイナーチェンジで結実されたということなのだろう。

BEVの世界は目新しさが重宝される傾向にあるが、ジャガーは世の中の流れとは関係なく、自分のペースでコツコツと熟成を重ねている。だからこそいい時代が再び巡ってきたと確信できた。

ジャガー I-PACE  車両本体価格: 1517.1万円(税込)

    • ボディサイズ | 全長 4695 X 全幅 1895 X 全高 1565 mm
    • ホイールベース | 2990 mm
    • 車両重量 | 2230 kg
    • モーター最高出力 | 400 ps
    • モーター最大トルク | 696 N・m
    • バッテリー容量 | 90 kwh
    • 一充電走行距離 | 438 km(WLTCモード)

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Text : Takuo Yoshida

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