この秋に迫ったサッカー「ワールドカップ」を楽しみにしている方は多いと思う。もしクルマの「乗り心地ワールドカップ」が開催されたら、間違いなくドイツ代表に選ばれると確信したモデルがある。それは、2021年1月に日本で販売を開始したメルセデス・ベンツ「Sクラス」だ。今回は「S500 4MATIC」の試乗をもとに、Sクラスがドライバーにもたらす高い快適性について検証したい。
<関連記事>キャディバッグの積載量は? メルセデス・ベンツ「C 220 d アバンギャルド」を検証「Sクラスの乗り心地がいいなんてあたりまえ」という声が聞こえてきそうだけれど、そのレベルの高さは全くもって「あたりまえ」ではない。日頃は厄介者扱いされている首都高速の段差がまったく気にならないどころか、「タン、タタ、タン」という心地よいリズムに感じるほどで、これには心から驚いた。さすがエアサスペンションと感心したものだが、この乗り心地のよさは、さらに先進的なメカニズムがもたらしたものだった。Sクラスは、電動化や自動運転化など語るべき点が多いハイテクの塊であるけれど、今回はあえて快適な乗り心地をもたらす足まわりに焦点を当てたい。
まずSクラスは全車標準で、「AIRマティックサスペンション」と呼ばれる電子制御式のエアサスを装備する。したがって、一般的な金属バネの代わりにエアスプリングが路面からの力を受け止めることになる。エアスプリングは、市街地を走るような場面では路面からのショックをやわらかく受け止めるから、乗り心地はしなやかだ。一方、ワインディングロードや高速走行時には、電子制御によってエアスプリングは硬くなり、可変ダンパーも揺れを抑える方向に働くから、ロール(横傾き)は抑制され、フラットな姿勢を保つことができる。
実際のところ、この“二刀流”を実現するエアサスだけで大したものであるけれど、試乗車には「E-ACTIVE BODY CONTROL」と呼ばれるオプションが備わっていた。このハイテク装備がすごかった。まず、路面を読むところから仕事を開始する。フロントガラスの上部に備わるステレオカメラが、路面の不整や凸凹などをいち早く察知。その情報に合わせて、前後左右の4つのサスペンションそれぞれに装備される電動油圧ユニットが、足まわりの設定を変える。凸凹を通過してからショックや揺れに対応するのではなく、通過する前から「この大きさのショックが来る」と準備するのだ。
同時に、各種センサーがスピードや重力加速度など、ドライビングの状況をしっかりと把握して、その情報も足まわりに伝えてセッティングを変える。足まわりが準備完了するのに要する時間は1000分の1秒単位だというから、恐れ入る。冒頭に記した首都高速の段差を乗り越える瞬間、Sクラスは盤石の態勢で臨んでいるから、ドライバーは夢のような乗り心地に酔いしれることができる。ただ乗り心地がいいだけではなく、コーナーが楽しいと思わせるところにもSクラスのすごさがある。コーナリング時に、絶妙のバランスでコーナー内側に車体を傾けるという制御をしているからで、ただしっとりとした乗り心地を提供するだけではなく、ドライビングの快感をもたらしてくれる。
だから、サイズこそちょっと気になるけれど、スポーツセダンのような使い方をしてもしっかりと応えてくれる。メルセデス・ベンツのSクラスは、魔法の絨毯(じゅうたん)に一番近いクルマかもしれない。
最後に、「E-ACTIVE BODY CONTROL」のすごさがわかる機能をもうひとつ紹介したい。側面からの衝突の危険を察知すると、ぶつかる側の車体を持ち上げ、頑丈なボディ下部で衝撃を受け止めるように機能するのだという。こればかりは確かめるわけにはいかないけれど、さすがはエンジン車を生んだ“自動車の父”の系譜を継ぐブランドだと感心するほかない。
メルセデス・ベンツ S500 4MATIC 車両本体価格: 1620万7000円【MP202202】(税込)
- ボディサイズ | 全長 5180 X 全幅 1920 X 全高 1505 mm
- ホイールベース | 3105 mm
- 車両重量 | 2110 Kg
- エンジン | 直列6気筒 ターボ
- 排気量 | 2996 cc
- 変速機 | 9速 AT
- 最高出力 | 435 ps(320 kW) / 6100 rpm
- 最大トルク | 520 N・m / 1800 - 5800 rpm
- 最高速度 | 250 km/h
- 0-100 km/h | 4.9 秒
- Text : Takeshi Sato
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