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ワルツがいざなう色褪せぬ思い出とあの日の自分

友人からでも、家族からでも、書評でも、課題図書でもない「オススメの本」を読んだことはありますか? 現実と少し距離を置く“小説の世界”への入り口は、時に不意の方が新鮮で心踊りそう。東京・六本木の本屋「文喫 六本木」のブックディレクター・及川貴子さんにBRUDER読者をイメージした一冊を選んでもらいました。

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「アーモンド入りチョコレートのワルツ」/森絵都

少しずつ春を感じる日が増えてきました。温かい日差しとまだ少し冷たい風、ほころぶ花のつぼみなどに、ふと懐かしい出来事を思い出す人も多いのではないでしょうか。今回は、「卒業」をテーマにした温かく切ない作品をご紹介します。

親戚の少年たちだけで海辺の別荘で過ごす夏の合宿、球技大会を抜け出して向かった旧校舎で出会った不眠症の少年と少女、少し変わった先生や同級生と夢みたいな時間を過ごせるピアノ教室。この本に収録された3つの物語の主人公は中学生です。どんなに楽しい時間にも、いつか終わりが来るということに気づいてしまい、諦めきれずに抗い、やがて自分なりのやり方で受け止めて前へ進んでいく。子ども時代の輝かしい時間とその終わりに向き合う彼らに、ピアノ曲が寄り添います。

――ワルツはわたしに教えてくれる。何を忘れて、何をおぼえていればいいのか。何もかもすべてをおぼえているわけにはいかない。楽しかったことをおぼえていなさい、とワルツは言う。大好きだった人たちのことをおぼえていなさい、とワルツはうたう―

――本文より

別れは避けられないとしても、思い出は色褪せません。この一冊で、自分の大切な思い出を振り返ってみませんか。

「アーモンド入りチョコレートのワルツ」森絵都(角川文庫)/¥572(税込)

COOPERATION

文喫 六本木 副店長/ブックディレクター 及川貴子

2018年日本出版販売入社。2022年4月より文喫 六本木副店長兼ブックディレクターとして、企画選書や展示イベント企画、本のある空間のプロデュースなどを行う。

Edit : Junko Itoi

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