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静かに、だが圧倒的に。紳士のためのV12スーパースポーツ アストンマーティン「ヴァンキッシュ」

現在はハイパーカーからSUVまで幅広いラインアップを展開し、F1グランプリでもすっかりお馴染みとなったイギリスの老舗プレミアムスポーツカーブランド、アストンマーティン。その最新フラッグシップ「ヴァンキッシュ」のステアリングを握る機会を得た。

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アストンマーティンといえば、攻撃的な表情を持つフロントエンジンの2ドアクーペを数多く世に送り出してきたブランドだ。その中でもヴァンキッシュは特別な存在である。2001年に初代が登場して以来、歴代モデルすべてがフラッグシップとして位置づけられてきた。その理由は明快だ。アストンマーティンとして初めてV12エンジンを搭載したモデルであり、その象徴的なレイアウトが現行型にも受け継がれているからだ。

現行ヴァンキッシュに搭載されるV12エンジンは5.2リッターターボで過給され、最高出力は835psに達する。スーパースポーツの世界では1000ps級も珍しくなくなったが、FRレイアウトでこの数字はやはり別格。アクセルを踏み込む前から、背筋に少し緊張が走る。

スタイリングもまた、このクルマの大きな見どころだ。大きく口を開けたフロントマスクは、まるで肉食魚のようなどう猛さをたたえ、ひと目でアストンマーティンとわかる。一方でリアエンドはブラックのパネルで引き締められているが、これはカーボン製ボディパネル。伝統的な造形の中に、最新素材をさりげなく織り込むあたりがいかにも英国流だ。

フロントV12スーパースポーツとしては、フェラーリ「12チリンドリ」が直接的なライバルとなるだろう。しかし両車を並べてみると、その思想の違いは明確だ。フェラーリがソリッドで華やかな色気を放つとすれば、ヴァンキッシュは分厚く、落ち着いたたたずまい。どこか「イギリス紳士のための道具」という空気をまとっている。

斜め上方へ跳ね上がるドアを開け、コクピットに身を沈める。視界に広がるのは、カーボンと本革に包まれたしっとりとした空間だ。ダッシュボードからサンバイザーに至るまで、惜しみなく革が使われているのはアストンマーティンの伝統。リアシートは持たない代わりに、キャビン後方にはちょっとした荷物を置けるスペースが確保されている。

センターコンソールのクリスタル製スタートボタンを押す。V12が目覚める瞬間は、思いのほか静かだ。きめ細かく、角の取れた回転フィール。5.2リッターという大排気量ゆえ、ターボが本格的に効く前の低回転域からすでにトルクは豊かで、軽くアクセルを踏んだだけで車体が前へ滑り出す。

走り出してまず印象的なのは、音の整理のうまさだ。ロードノイズや雑音はしっかり遮断されている一方で、V12の軽やかな響きだけが耳に届く。荒々しさはなく、あくまで上質。回転を上げるにつれ、シルクのように滑らかな加速が続いていく。

もちろんスロットルを深く踏み込めば、身体がシートに押し付けられるほどの猛烈な加速が訪れる。だが、ここでパワーを誇示するのはヴァンキッシュの流儀ではない。最高速は軽く300km/hを超えるはずだが、その事実を知ったうえで、あえて穏やかに流す。そんな走らせ方が、このクルマにはよく似合う。

大手自動車メーカーの傘下に入らないアストンマーティンだが、インフォテインメントやACC(アダプティブクルーズコントロール)といった装備はしっかりと作り込まれており、日常域でも不安はない。リアには十分な容量のラゲッジスペースも備わる。ただしボディ剛性を優先するこのクラスのスポーツカーらしく、開口部はやや小さめで、「ヴァンテージ」同様に積み下ろしには少し工夫が必要だ。

フェラーリの12チリンドリと同じく、電動化の影響を一切受けていないV12エンジン。その存在自体が、すでに希少な時代に入っている。だからこそ、ヴァンキッシュという“紳士のスポーツカー”で、同じく紳士のスポーツであるゴルフへ向かう。もしそれを涼しい顔でやってのけられたなら――あなたももう、立派なアストンマーティンオーナーだ。

アストンマーティン ヴァンキッシュ  車両本体価格: 5290万円(税込)

  • ボディサイズ | 全長 4850 X 全幅 1980 X 全高 1290 mm
  • ホイールベース | 2885 mm
  • 車両重量 | 1910 kg
  • エンジン | V型12気筒 ターボ
  • 排気量 | 5024 cc
  • 最高出力 |  835 ps(614 kW)
  • 最大トルク |  1000 N・m

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Text : Takuo Yoshida

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