伊達オトコ御用達といっても、価格、信頼性の面でおいそれと手を出せないのがマセラティだ。モデナの名門はレーシングカーの製作によって戦前に誕生し、フェラーリよりもはるかに古い歴史がある。ポルシェのアイコンは言わずもがなリアにエンジンを置く「911」。ではマセラティは? 答えは今回の主役である「グラントゥーリズモ」で、フロントにマルチシリンダーエンジンを据えた豪奢なGTカーだろう。
<関連記事>ロータス最後のエンジンを味わい尽くす「エミーラ V6 ファーストエディション」
この前身は「グランスポーツ」を名乗っていた。さらにさかのぼれば、「クーペ」「4200GT」「3200GT」、そしてスーパーカー世代にとっては懐かしい「カムシン」や初代「ギブリ」へと行きつくことになる。
グラントゥーリズモは2022年にフルモデルチェンジした。先代は、2007年から19年まで作られた長寿モデル。今回、プラットフォームを含めた完全刷新が行われたのは、ご多分に漏れず電動化が理由だ。2世代目となるグラントゥーリズモには、マセラティ自製の3.0リッター、V6ターボの “ネットゥーノ”を搭載したモデルの他に、ブランド初の100%電動モデル「フォルゴーレ」がラインアップされている。
V6エンジンには最高出力490psのベーシックモデル「モデナ」と、550psを誇るハイパワーモデル「トロフェオ」の2つのグレードが用意されている。試乗したモデルは先に上陸したトロフェオだ。
走らせた感想は伸びやかだが、鋭いスタイリングに見合って文句なしに速い。V6ターボが絞り出す550psはもちろん刺激的だが、その最高出力を受け止める駆動系はAWD化されているのでスタビリティ的にも不安はない。エアサスペンションはステアリング上のダイヤル操作でドライビングモードを変更でき、パワートレーンの性格、乗り心地がガラリと変えられるのもいい。
コンフォートモードは柔らかくしっとりとした乗り心地で、GT→スポーツ→コルサ(イタリア語の競争、レーシング)の順で攻撃的になっていく。スペックシートに記された320km/hという最高速度は決して誇張ではないだろう。新型グラントゥーリズモはその名の通り、グランドツーリングをハイペースでこなすことができるスーパーな一台だ。
パワートレーンに注目が集まりがちだが、スタイリングも正常進化を果たした。マセラティの象徴である楕円形のグリルを前方に押し出したようなフロントノーズは、ピュアスポーツモデルの「MC20」やSUVモデルの「グレカーレ」にも通じるデザインであり、ひと目で最新世代のマセラティと分かる。
また、マセラティは伝統的にインテリアの仕立てに定評のあるメーカーだ。近年、ダッシュパネル中央に凝った時計を装着する自動車ブランドが増えているが、マセラティがその流れを作った張本人ともいえる。新型も上質なレザーでトリムされたパネル中央に、ブルーに輝くスマートウォッチを装着した。デジタルなので表示内容を変えられる仕様となっている。
現代車の基本装備として欠かせないADAS(先進運転支援システム)も完備しており、おおよそ欠点は見当たらない。追って上陸するはずのBEV(電気自動車)版が気になるというファンもいるだろうが、まずはガソリンエンジンを搭載した最後のマセラティクーペに注目してみてはいかがだろうか。
マセラティ グラントゥーリズモ トロフェオ 車両本体価格: 2998万円(税込)
- ボディサイズ | 全長 4965 X 全幅 1955 X 全高 1410 mm
- ホイールベース | 2930 mm
- 車両重量 | 1870 kg
- エンジン | V型6気筒 DOHC ターボ
- 排気量 | 2992 cc
- 最高出力 | 550 ps(404 kW) / 6500 rpm
- 最大トルク | 650 N・m / 2500 rpm
- 変速機 | 8速 AT
お問い合わせ先
Text : Takuo Yoshida