メルセデス・ベンツにはさほど興味がなくても、「Gクラス」だけは気になる、そんな方も少なくないのではないだろうか。1979年に軍用車の流れを汲んで誕生し、2018年には大規模な改変(事実上のフルモデルチェンジ)を経た、メルセデスSUVの象徴的存在に位置づけられる。
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特徴は、センターデフに加えフロントとリアにも電子制御デフロック機構を備え、スイッチ一つで操作できるという、荒野を走破するためのタフな道具。荒れた道が少ない日本でも大いに人気を博しており、特に新車の入手が難しいため、中古車の価格が上昇するほどだ。
そんなGクラスのラインアップに、フル電動化された新モデル「G580 with EQテクノロジー」が加わり、日本での販売も開始された。バッテリーとモーターで駆動するBEV(電気自動車)のG580は、Gクラスの新たな進化形とも言える。
外観は既存のガソリンモデルにほぼ準じており、識別ポイントはフロントグリルがパネルタイプに変わったこと、リアのスペアタイヤケースが角ばった収納ボックスになったことだ。インテリアも既存スタイルを継承し、電動化による変更は最小限に抑えられている。この伝統重視のアプローチは、Gクラスならではのこだわりと言えるだろう。
一方で内部構造は大胆に刷新された。これまでの内燃機関モデルは、AWDの駆動系などに相当なコストがかけられてきたが、BEV化されたG580にも上質なメカニズムを搭載。その要となるのが、各輪に1個ずつ備わる147psのモーターで、各モーターには2段のギアボックスが装備され、ローレンジ(オフロード用の低速モード)も備えている。この4輪4モーターシステムによって、電子制御による仮想デフロックやコーナリング性能を高めるトルクベクタリングなど、これまで以上に緻密な機能を実現させた。
さらに、未舗装路での自在な走行をより高めるG580ならではの画期的な「G-TURN」と呼ばれる機能が搭載された。左右のモーターを逆回転させることで、コマのようにその場でクルリと旋回できるというもので、荒れた地形や狭いトレイルでも素早い方向転換が可能になる。従来の車両が前後移動を必要とする場面でも、G-TURNを使えば最小限のスペースで即座に向きを変えることができるという。この機能により、特にタイトな山道や急カーブの多い道での機動力が大幅に向上しており、オフロード走行における利便性が格段に引き上げられる。
床下のラダーフレームに収められたリチウムイオンバッテリーの容量は116kWで、一充電あたりの走行距離は530km(WLTCモード)と、長距離ドライブも可能な性能を誇る。4モーターシステムによる総出力は587ps、最大トルクは1164Nmと申し分なく、不満の声があがるはずもないだろう。
気になるのは、V8搭載のGクラスで感じられる快音がなくなる点かもしれない。電動のG580は静音にも、また(電子的に)音を強調することも可能なはずで、メルセデスがこの音響をどのように仕上げたのか、テストドライブでの確認が楽しみだ。
ちなみに、V8エンジンを搭載するメルセデス「AMG G63」の車両価格が3080万円であるのに対し、G580 with EQテクノロジーエディション1の価格は2635万円に設定されている。走破性能が新たなヒエラルキーを決めるなら、電動化モデルが主流となる日も遠くないかもしれない。どちらが究極のGクラスなのか、しばらくはそんな議論が話題を呼びそうだ。
メルセデス・ベンツ G580 with EQテクノロジーエディション1 車両本体価格: 2635万円(税込)
- ボディサイズ | 全長 4730 X 全幅 1985 X 全高 1990 mm
- ホイールベース | 2891 mm
- 車両重量 | 3085 kg
- モーター最高出力 | 587 ps(432 kW)
- モーター最大トルク | 1164 N・m
- 一充電走行距離 | 530 km(WLTCモード)
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Text : Takuo Yoshida