“ジャガーネス”を雄弁に物語る一台 ジャガー「FタイプR75 P575クーペ」

ジャガーは2025年以降、完全なBEV(電気自動車)ブランドとなることを宣言しており、内燃機モデルの生産を段階的に終了していく方向だ。具体的には今年末までにSUV以外の内燃機関モデル(セダン系、スポーツカー系)の受注が終了する。

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今回試乗したジャガーのスポーツカー「FタイプR75 P575クーペ」の受注は、つい先ごろ終了したばかり。つまり新車を手に入れようと思ったら、ディーラーがストックしている車両を探す必要がある。ブランドが消滅するわけではないものの、この現実を突きつけられると、驚きを禁じ得ないというファンもいるだろう。だが、すでにカウントダウンは始まっていて、いま考えるべきは、「Fタイプ」にどんなベネフィットが込められているのか、という一点に絞られるはずだ。

Fタイプは2013年末に発表された2シーターのスポーツクーペ。そのネーミングは1960年代の伝説的なモデル「Eタイプ」の次、であることに由来している。実際に「XJ-S」や「XK8」といった2+2シーターのスポーツモデルを絶えずラインアップしていたが、純粋な2シーターはEタイプ以来になる。最終モデルとなる現行のFタイプは、2020年にフェイスリフト(マイナーチェンジ)されたもの。基本的な構造は“10年選手”ということになるが、オールアルミモノコックのシャシー構造が時代に先んじたものであったことを考えれば、「古い」という表現は当てはまらない。今回ステアリングを握ってみて、デビュー当時に先進的だった構造が、この10年でイギリス車らしい熟成の境地に達した、そんな表現がぴったりだと思った。

モデル名にある75という数字は、ジャガーのスポーツカー生誕75周年を意味し、Pはペトロール(=ガソリン)、575は5.0リッター 、スーパーチャージドV8エンジンの最高出力を指している。スタイリングは、筋肉質で引き締まったネコ科の動物を彷彿とさせる攻撃的で鋭い表情をしている。フロントエンジンのスポーツカーは後輪駆動が多いが、さすがに575psもの大きなパワーを手なずけるため、パワートレーンはAWDとなっている。

これらのメカニカルな情報を頭に入れて走り出すと、すっきりとした感触に驚かされる。AWDモデルは、ステアリングの感触に駆動系由来の鈍さを感じることが珍しくないが、Fタイプにはそれがない。また、エンジンに追加されたスーパーチャージャーはレスポンスを阻害することがあるが、熟成したV8エンジンはスロットルに敏感に反応し、雷鳴のような爆音をとどろかせる。

すっきりとしつつ、恐ろしく刺激的でもあり、走り始めるとすぐにドライブフィールに惹き込まれて高級車に乗っていることを忘れてしまう。だが、ひとたび都会の雑踏に紛れ、ペースが落ちれば、クルマ全体からにじみ出てくるようなしっとりとした乗り心地と、インテリアの質感の高さといった“ジャガーネス”に心を打たれる。Fタイプには平凡なスポーツカーが持ち合わせていない攻撃性とプレミアム感がある。

前述のとおり、ジャガーは今後BEVブランドとなり、新たな個性を追求していく時代に突入する。そのとき「往年のジャガーはどんな存在だったのか?」と考える人もいるはずだ。このクルマこそ、その問いに一台で答えることができる貴重な語り部といえるだろう。

ジャガーFタイプR75 P575クーペ  車両本体価格: 1833万円(税込)

    • ボディサイズ | 全長 4470 X 全幅 1925 X 全高 1315 mm
    • ホイールベース | 2620 mm
    • 車両重量 | 1670 kg
    • エンジン | V型8気筒DOHCスーパーチャージド
    • 排気量 | 4999 cc
    • 最高出力 | 575 ps(423 kW) / 6500 rpm
    • 最大トルク | 700 N・m / 3500 rpm
    • 変速機 | 8速 AT

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Text : Takuo Yoshida

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