ベントレー「フライングスパーS」が秘めた“ラクチン”を探る

SUV台頭のイメージが強い昨今だが、だからといってセダンの性能が劣っている、というわけではない。今どきのクルマは基本設計の段階で、さまざまなサイズのセダンやSUVに転用可能な“モジュラータイプ”のプラットフォームを使用しているので、ポテンシャルのアップは時代とともに、みな一斉に行われるものだ。

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今回はベントレー「フライングスパーS」を紹介する。4ドアのフラッグシップサルーン「フライングスパー」に新たに追加されたスポーティなグレードだ。

正直に言って、ベントレーは家が一戸買えるような価格帯なので「あー、乗ったことある!」という人は決して多くはないだろう。しかもただの高級車ではない。イギリスの貴族をはじめ、世界中のジェットセッターが好んで乗るような“超”がつく高級車なので、価格以前に恐れ多いと思われても不思議ではない。

興味深いのは、ベントレーのオーナーは異口同音に「いいクルマ。ラクチン」だと言う。それもブランドやヒストリーに明るいクルマ好きならまだしも、奥さんやパートナーでさえ「だから私、毎日乗っちゃうの」なんて言うのだから、本当なのだろう。フライングスパーという車名は、ベントレーが1960年代から使用してきた伝統的なもの。「空飛ぶ拍車」を意味する。ちなみに拍車とは、乗馬靴の踵(かかと)に取り付ける金属製の馬具のことで、「飛ぶように颯爽と駆け抜けるクルマ」といった意味合いだろうか。

フライングスパーは2005年に「コンチネンタル フライングスパー」の名を復活させたもので、現行型(2019年~)は3代目となる。今回試乗したフライングスパーSは4.0リッターのツインターボV8エンジン搭載モデル。ほかには3.0リッター、V6ハイブリッドエンジンを選択できる。フライングスパーについては昨年レポートを載せているのでこちらも併せて読んで欲しい。フライングスパーSには22インチのホイール&タイヤ、スポーツエキゾースト、専用パターンの表皮シートを標準装備している。また、外装のクロームパーツをブラックフィニッシュにしている点もポイントだ。

スタイリングはまるでセダン代表であるかのようなフォーマルな3ボックスシルエット。フワッと柔らかい乗り心地だが、それでいて浮ついた感じが一切ない。スロットルを深く踏み込めば、野太い排気音とともに、怒涛の加速力も発揮してくれる。躍動的に走らせても、身のこなしが2.5トンに近い重量級であることを感じさせないのは、電子制御エアサスペンションの硬軟を併せ持つ足さばきによるところが大きい。たとえ飛ばして走っていても室内の空気が優雅に感じられるのは、遮音が効いた上質な室内空間のなせる業といったところか。

全長5.3m超のボディを街中で取りまわしていても、窮屈な感じやクルマに気を遣うことがあまりない。だからこそ冒頭の「いいクルマ。ラクチン」というオーナーズボイスが度々聞かれるのだろう。

荘厳なベントレーディーラーに足を踏み入れるのは、度胸がいることかもしれない。だが2トーンの革でトリムされた極上のステアリングを握ってみれば、きっと高級車に対する概念がガラリと変わるはずだ。

ベントレー・フライングスパーS V8  車両本体価格: 2990.9万円(税込)

  • ボディサイズ | 全長 5325 X 全幅 1990 X 全高 1490 mm
  • ホイールベース | 3195 mm
  • 車両重量 | 2480 kg
  • エンジン | V8ツインターボ
  • 排気量 | 3996 cc
  • 最高出力 | 550 ps(404 kW) / 5750 - 6000 rpm
  • 最大トルク | 770 N・m / 2000 - 4500 rpm
  • 変速機 | 8速DCT

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Text : Takuo Yoshida

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