1967 ロールス・ロイス・シルバーシャドウ I クーペ・ジェームスヤング。クラシック・ロールスの威厳に憧れ、悦楽に浸る。

高級ブランドの製品は、時間が経過してもその価値が薄れないという特徴を持ったものが多い。数ある高級車ブランドの中でもトップレベルのステータス性を維持し続けているロールス・ロイスの生産車もまた、時間の経過によって色褪せしにくいという特徴を持つ。クラシック・ロールスでカントリークラブを訪ねる。ゴルフとクルマを愛する者にとってこれ以上の至福があるだろうか?

ゴルファーに最適なクルマに思いを巡らせた場合、その選択肢を現行車に限定してしまうのは良くない。快適な移動手段として考えるならば新型車こそ、という側面もあるが所有する喜びや質感の高さ、そしてオーナー自身の価値観や遊び心をも反映させた1台となれば往年のモデルを軽んじることはできないのである。

ゴルファーに最適なクラシックカーというテーマに対するひとつの結論が、英国が世界に誇る高級車、ロールス・ロイスに凝縮されていると言ったら、少々意外な感じがするだろうか。

1906年創業のロールス・ロイスは説明するまでもなく、今日まで命脈を繋ぐ超一流の自動車ブランドである。その顧客リストには王侯貴族やVIPなど錚々たる面々が名を連ね、ブランドの格や権威を下支えしている。

今回紹介する1台は、今から半世紀ほど昔に生産されたクラシックというだけでなく、数あるロールス・ロイスの中でもごく少数しか作られなかったという稀有な肩書きも持ち合わせているのである。

ロールス・ロイスと聞くと、多くの人は運転手付きのクルマを思い浮かべるはずだ。オーナーがリアシートに座る、いわゆるショーファードリブンというスタイルである。

最も格式の高いショーファードリブンカーというロールス・ロイスの伝統は今日でも受け継がれているが、一方ではオーナー自身がステアリングを握る世界観も存在している。

4ドアのロールスをオーナーがドライブするのも悪くはないが、より強くオーナードライバーであることを主張するのであれば2ドアモデルの方が最適だ。まさに今回のシルバーシャドウ・クーペがそれである。

ロールス・ロイス・シルバーシャドウは1965年に発表されたモデルで、生産された大半は4ドアサルーンとなっている。

古いメカニズムが一気に刷新され現代的になったことで知られるモデルであり、ロールス・ロイスとして初のモノコックボディや4輪独立のサスペンションを備え、モダンな走りを実現している。

パワートレインは、ロングライフを誇る6.75リッターのV8エンジンと4速ATの組み合わせとなっている。

シルバーシャドウが「ゴルファーに最適なクラシックカー」である理由をいくつか挙げてみよう。まず記すべきは、現代車にも引けを取らない静粛性の高さと快適な乗り心地といった基本性能の高さだろう。

また同じような年式のクラシックカーと比べた場合、歴代オーナーが丁寧に扱い、コストをかけてメンテナンスをしてきた個体が多いこともメリットといえる。

クラシックカーとしては珍しく、クーラーを完備しているクルマが多いこともロールス・ロイスらしい特徴といえるだろう。トランクスペースは外観から想像するよりも浅く作られているが、それでもゴルフバッグ数本は余裕をもって搭載することがでできそうだ。

シルバーシャドウ・クーペのボディはロールス・ロイスとしては決して大きくはないが、たっぷりとして厚みのあるスタイリングの迫力は相当なもの。

特にクロームメッキによって深みのある光沢を湛えたパルテノングリルと、その頂点で優雅に羽ばたくスピリット・オブ・エクスタシーはインパクト充分といえる。

シルバーシャドウ・クーペの室内は、まさに贅を尽くした空間として完成している。豪華なウッドを使用したダッシュパネルには現代車に求めることのできない職人芸が込められているし、上質な皮革が使用されたシートは座面の大きさもたっぷりとしており、座り心地も極上である。

また、シルバーシャドウ・クーペは2ドアでありながらロールス・ロイスの名に恥じない広々としたリアシートも備えているので、ゲストにも最大限のおもてなしを提供することができる。

威厳に満ちた佇まいのシルバーシャドウ・クーペだが、その運転は想像するよりも難しくない。着座位置が高くグラスエリアが広いため視界は良好でボディの四隅を把握しやすいし、ブレーキやステアリングのパワーアシストも充分に効いているので、力む必要もない。

ステアリングの切れ角が大きいので狭い道での取り回しが楽という点も特筆すべきだろう。シフトはオートマティックだし、V8エンジンは低回転から非常に力強いので、あまりエンジンを回さなくても現代の交通ペースに合わせることができる。

セルフレベリング機構が付いた油圧サスペンションは非常に優秀で、その乗り心地はまるで水の上に浮いているような独特の浮遊感に包まれている。

現代車と比べればステアリングの中立付近が曖昧だし、サスペンションも柔らかいので、そのドライブフィールをスポーティと表現することはできない。

それでもフロントガラス越しに見えるスピリット・オブ・エクスタシーに導かれるようにして走っていると、自然と運転が丁寧になり、高速道路では走行車線をゆったりとしたペースで走るだけで充分と思えてくるから不思議である。

今回の個体の正式名称はロールス・ロイス・シルバーシャドウ Ⅰ クーペ・ジェームスヤングという。標準的な4ドアサルーンであるシルバーシャドウをベースとして、コーチビルダーと呼ばれるボディ架装業者であるジェームスヤングが2ドアボディに仕立て直したスペシャルモデルなのである。

ジェームスヤングによって製作された2ドアの個体はロールス・ロイス版が35台、一方当時ロールス・ロイスの傘下にあったベントレーのバージョンは15台が製作されただけに留まる。

外装色や内装の仕様まで含めればまさに1点モノと言っていい貴重な1台なのである。

クラシックのロールス・ロイスというだけでなく、特別に仕立てられたヒストリーをも備えたシルバーシャドウ・クーペ。このクルマに乗って馴染みのカントリークラブを訪ねたとすれば、大いに注目され声を掛けられたりするかもしれないが、立ち振る舞いはいつも通りでいい。

それこそロールス・ロイスの威厳に呑み込まれないためのコツなのである。

1967 Rolls Royce Silver Shadow Ⅰ Coupe James Young

  • ボディサイズ | 全長5,169 × 全幅1,829 × 全高1,518mm
  • ホイールベース | 3,035mm
  • エンジン |水冷 V8 OHV
  • 排気量|6,223cc
  • 最高速|193km/h
  • Text : Takuo Yosshida
  • Photographer : Koichi Shinohara
  • Golf Course : 富里ゴルフクラブ
  • 取材協力 : Cooperation: WAKUI Museum    www.wakuimuseum.com/
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