『ナイトライダー』の世界が現実に BMW「i Vision Dee」に感じる未来

新年早々、初夢を見るようなニュースが飛び込んできた。ラスベガスで開催された世界最大規模のテック見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES 2023)」で、BMWが斬新なコンセプトカーを発表した。モーターショーではなく「CES 2023」で発表したということから、すぐに市販化されるものではないと想像するけれど、BMWが未来のクルマはこういう方向に進むと考えていることは間違いなさそうだ。 コンセプトカーのネーミングは、BMW「i Vision Dee」。Deeとは、「デジタル・エモーショナル・エクスペリエンス」の略で、読んで字のごとくデジタル技術で官能的な体験を提供することを目的にしている。では、デジタルでどのようにワクワクさせてくれるのか?

まずi Vision Deeは、喜怒哀楽を表現する。具体的には、キドニーグリルとヘッドライトの光や形を変えることで、さまざまな感情を視覚的に見せるのだ。フロントマスクは昔から「丸目の愛嬌のある顔」とか、「吊り目のコワい顔」というように、クルマのキャラクターを決定づける大きな要素だった。次の時代のBMWは、表情やキャラクターが多彩になる。 ちなみに、ボディ全体に貼り付けたフィルムとレーザーによる発色技術で、その日の気分によってボディカラーを32色から選ぶことができる。いざ乗り込もうと車両に近づくと、サイドウィンドウが液晶画面になり、そこに投影されたアバターが出迎え、もてなしてくれるのだ。

こんな風に、あっと驚くような電気仕掛けが連続するのに、ボディスタイルが1980年代のBMWを思わせる、懐かしの3ボックスセダンである点がおもしろい。「デジタルでぶっ飛びすぎないよう、人間味を持たせた」というのがBMWの説明だ。なるほど、たしかにこの中身でUFOみたいにアヴァンギャルドなスタイルだったら、ちょっと引いてしまうかもしれない。アニメの『銀河鉄道999』が、温かみのあるSLの形になったのと、狙いは同じかもしれない。

インテリアで目に入るのは特異な形状のハンドルだけで、眺めは至ってシンプルだ。その理由は二つある。一つは、ヘッドアップディスプレイにすべての情報を表示するため、メーター類は不要になるということ。そしてもう一つは、オーディオやカーナビ、車両セッティングなどのインフォテインメント(情報と娯楽の提供を実現するシステムの総称)はすべて音声操作で行うためスイッチ類も不要なためだ。これによりドライバーは視線を移動することなく、ハンドル操作に専念して運転に集中することができる。

そして自動運転レベル4、たとえば「高速道路で80km/hまでの走行」という一定の条件下で運転の全権をクルマに委ねることができるようになれば、フロントウィンドウには仮想現実が投影されたり、仮想世界へのアクセスが可能になったりする。見慣れた無味乾燥な高速道路走行も、地中海沿いの絶景ルートを走っているように感じるようになるという。 興味深いのは、音声操作などでクルマとのコミュニケーションを深めていくと、意思の疎通がスムーズになるということだ。音楽やエアコン、車両のセッティングなど、愛車はドライバーの好みを理解してくれる。まさに1980年代のアメリカのドラマ『ナイトライダー』の世界だ。いや、フロントウィンドウに投影される仮想現実の世界を走るようになれば、それを優に越えることになるかも。

クルマはただの機械ではなく、ペットや相棒のように感じる瞬間がある。デジタル技術がどれだけ進んでも、クルマに対して抱く感情は家電製品とは異なるはずだ。仮に冷蔵庫が音声操作になったとして、私たちは冷蔵庫と意思疎通を深めたいと思うだろうか?どんなに技術が進化しても、クルマは“エモーショナルな存在”であるとBMWは考えている。最新のコンセプトカーから、そんなBMWの思いが伝わってきた。

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Text : Takeshi Sato

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