最も“過激” マニア垂涎のポルシェ「718ケイマンGT4 RS」

ここ最近のポルシェ市販モデルのなかで、最も過激なキャラクターではないかと感じたのが「718ケイマンGT4 RS」だ。RSとは「Renn Sport(レンシュポルト)」の略で、つまりレーシングスポーツ。その名にふさわしい、レーシィな仕上がりとなっている。ただし、「718ケイマンの最上グレードだったら欲しいかも…」と思われた方は、最後まで読んでもう一度熟考することを勧めたい。これは718ケイマンのラインアップのなかで最も高価なモデルであると同時に、最もスパルタンな仕様でもあるからだ。

718ケイマンGT4 RSの最大の見どころはずばりエンジンで、「911GT3」の4.0リッター・水平対向NA(自然吸気)エンジンが搭載されている。718ケイマンをスポーティに仕立てた「718ケイマンGT4」は「911カレラ」と同じ4.0リッター・水平対向NAエンジンを積んでおり、「GT4」の最高出力が420psであるのに対して、「GT4 RS」は500psとなっている。ただし、スペック以上にエンジンの吹け上がりのフィーリングや音がまるで違う。エンジンを始動した瞬間、まるで1980年代の高性能車のように、ガチャガチャとした不機嫌そうなメカニカルノイズがコクピットに充満する。暖機が済むと不機嫌さはいくらか軽減され、エンジン音がそろうようになるけれど、メカニカルな音のボリュームがかなり大きいことは変わりない。

7速PDK(ポルシェ・ドッペルクップルング=Porsche-doppelkupplungは、ポルシェにおけるデュアルクラッチ式オートマチックトランスミッションの名称)のシフトセレクターをDレンジにセットする。718ケイマンGT4ではMTとPDKが用意されているが、GT4 RSではPDKのみとなる。ちなみに、7速PDKのシフトセレクターも「911GT3」から移植したものだ。アクセルペダルを踏み込むと、大昔のキャブレーターのような「コー、グォー」という吸気音が耳に飛び込んできて、ちょっと懐かしくなる。低回転域では濁っていたエグゾーストノートが、回転を上げるにつれて澄んでいくあたりも懐かしい。3000rpmを超えたあたりからの「クォーン」「フォーン」という快音は、昭和のクルマ好きにはたまらない。自然吸気エンジンには、ターボにはない爽快感と官能性がある。

もし助手席にパートナーや子どもを乗せている場合は、このへんで理性を働かせたほうがいいだろう。8400rpmで最高出力を発生させる高回転型のエンジンなだけに、5500rpmを超えてからの音はマニアにとっては“美爆音”だけれど、普通の人にとっては騒音以外の何ものでもない。特に6500rpm以上の領域での爆音は、「耳をつんざく」という表現を使いたくなるほどだ。回すほどにレスポンスは鋭くなり、高回転域ではアクセルペダルの操作にかみつくようにエンジンが反応する。911GT3よりも軽量でコンパクトな718ケイマンに積まれた分、ボクサーユニット(水平対向エンジン)の反応は俊敏で、アクセルペダルとエンジンが直結しているような錯覚を覚える。乗る前は、PDKだけでなくMTがあってもいいのではないかと思っていたが、エンジン特性に合わせてギア比を接近させているので、試乗してみるとPDKになんの不満も抱いていないことに気づいた。

助手席に人を乗せた場合でも、エンジン回転を控えれば、音はなんとかなる。どうにもならないのが、脳天に響くような突き上げ感だ。路面がスムーズなサーキットで踏ん張ることだけを考えたようなサスペンションのセッティングでは、マンホールを乗り越えただけで「ビシッ」という突き上げを感じる。911にしろ718ケイマン、ボクスターにしろ、最近のポルシェのスポーツカーは乗り心地抜群ではあるけれど、このGT4 RSだけは別物だった。市街地走行では、クルマ好きや運転マニアですら「これはちょっと…」と感じるハードな乗り心地ではあるけれど、ワインディングロードに足を踏み入れれば、だれもが納得するはずだ。シャープなハンドリングはまさに鋭いカミソリのようで、ステアリングホイールを握る手のひらに「クッ」と力を入れた瞬間に、ノーズが向きを変え始める。正直、慣れるまでは怖いと感じるほどの回頭性の高さで、「RS」というモデル名は誇大ではないと思い知らされた。

ここまでお読みいただいて、それでもGT4 RSを選びたいという方を止めるつもりはない。個人的にはより平和な乗り心地で、しかもNAエンジンの楽しさを堪能できる718ケイマンGT4を選びたい。普通のワインディングロードだったら、GT4の方が楽しめると思うからだ。GT4 RSは言わばサーキットを主戦場にする武闘派が選ぶ戦闘機で、普段使いするにはそれなりの覚悟が必要だ。 現在、空冷エンジンを積むポルシェ911が高騰している。おそらくGT4にしろGT4 RSにしろ、将来的にはマニア垂涎のモデルになるはずだ。というのも、ポルシェは2025年を目処に718ケイマンをBEV化すると発表しており、ポルシェの自然吸気エンジンを楽しむチャンスはこれが最後かもしれない…と囁(ささや)かれている事実もあるからだ。

ポルシェ718ボクスター GT4 RS  車両本体価格: 1878万円(税込)

  • ボディサイズ | 全長 4456 X 全幅 1822 X 全高 1267 mm
  • ホイールベース | 2484 mm
  • 車両重量 | 1415 kg
  • エンジン | 水平対抗6気筒
  • 排気量 | 3996 cc
  • 変速機 | 7速 PDK
  • 最高出力 | 500 ps(368 kW) / 8400 rpm
  • 最大トルク | 450 N・m / 6750 rpm
  • 0-100km/h | 3.4 秒
  • 最高速度 | 315 km / h

お問い合わせ先

Text : Takeshi Sato

閉じる