ブランドの個性がギンギンに伝わる高級サルーン「DS 9 ピュアテック オペラ」

「パリでしか味わえないラグジュアリー」というキャッチコピーとともに日本に上陸したDSブランドのフラッグシップモデル「DS 9」は、フランス本国ではマクロン大統領の公用車として使われることで知られる。メルセデスベンツ、BMW、アウディといったドイツ御三家とも、日本の高級車とも異なる、個性的なプレミアムサルーンだ。

DS 9には、1.6リッター・直列4気筒ガソリンターボエンジンを積む仕様「Pure Tech(ピュアテック)」と、このエンジンにモーターを組み合わせたプラグインハイブリッド仕様「E-TENSE(イーテンス)」がある。そしてそれぞれに、「RIVOLI(リヴォーリ)」という標準グレードと、「OPERA(オペラ)」という高級グレードが設定されている。今回の試乗車は、ガソリンエンジンを積む「Pure Tech OPERA」だ。

DS 9を紹介する前に、まず2014年にシトロエンから独立したDSというブランドについて説明したい。普通に考えると、トヨタとレクサスの関係に当たるような、シトロエンの高級版がDSということになる。けれどもこれまでのDSの各モデルを見ると、単に高級というだけでなく、アヴァンギャルドな路線を突っ走っている。公表はされていないが、DSというブランド名は1955年にシトロエンが発表したモデル「DS」に由来していると考えて間違いないだろう。シトロエンDSは、宇宙船と称されたデザインと、ハイドロニューマティックという画期的なサスペンションで一世を風靡した前衛的な高級車だった。つまり、DSは単にプレミアムというだけでなく、アヴァンギャルドなブランドなのだ。DS 9も同じ路線で、ボンネットの中央を走る“セイバー”と呼ばれるラインや、ルーヴル美術館のガラスのピラミッドをモチーフにしたというリアコンビランプ内部の複雑な格子模様など、「高級=穏やか」ではない、独創的なデザインになっている。室内に乗り込んでインテリアを見回すと、さらにその個性が際立っていることに気づく。

インテリアのコンセプトは、トレンドと逆を行っているように見える。最近は、できるだけスイッチやダイヤルを減らし、タッチパネルに集約するシンプルなインターフェイスが主流となっている。ところがDS 9は、シフトセレクターの両側にあえてスイッチを配置し、ひし形のモチーフを反復する手法や、高級腕時計に使われるギョーシエ彫り(クル・ド・パリ)という手法で、あえてスイッチを目立たせている。

高級仕様であるOPERAのレザーシートは、腕時計の革ベルトから着想を得たというウォッチストラップシート(一枚革が形作る)で、これもほかでは見たことがない。ダッシュボードのエアコン吹出口の中央に位置するボタンを押すと、フランスの時計メーカー「B.R.M」のアナログウォッチ盤面が、くるっと回転して姿を現した。全体にかなりクセが強めの演出で、人によってはやり過ぎだと思えるかもしれない。

走り出す前は、メルセデス・ベンツ「Eクラス」やBMW「5シリーズ」と同等のサイズに1.6リッターのエンジンでちゃんと走るのかという疑念があった。けれども、ストップ&ゴーが続く都心部で低速トルクに不満を感じることもなければ、高速道路の合流でパワー不足を感じることもなかった。そういえばフランスの自動車メーカーは、小排気量エンジンで効率よく走らせる合理的なクルマ作りが得意だったことを思い出した。このあたりにも、パワーはあればあるほど好ましい、力こそ正義だという、ドイツ勢との違いを感じる。

そして、なにより特筆すべきなのは乗り心地だ。ハイドロニューマティックサスペンションを採用していないのに、ハイドロを思わせるふんわりとした乗り心地なのだ。特に、ドライブモードで「コンフォート」を選ぶと、「DSアクティブスキャンサスペンション」が起動して、乗り心地がより一層まろやかになる。このデバイスは、カメラが前方の路面状況を把握し、それに合わせてサスペンションの制御を変えるというもの。70年近く前の時代から、乗り心地を良くしたいというこだわりは変わらないのだろう。

ハンドルを握っていると、快適というだけでなく身体にかかる負担も少ないように感じる。これには、絶妙な座り心地のシートも貢献している。ウォッチストラップシートは、見かけは尖っているけれど、腰を掛けると実に温厚な性格で体を優しく包み込んでくれるのだ。これまでにない“クセの強さ”を感じるクルマではあるが、それはハマればどっぷり浸かってしまうということでもある。こんなにお国柄やブランドの個性がギンギンに伝わってくる高級サルーンはなかなか見当たらない。フレンチラグジュアリーの世界観を理解する人たちの審美眼にかなう一台といえるのではないだろうか。

DS 9 ピュアテック オペラ   車両本体価格: 735.9万円(税込)

  • ボディサイズ | 全長 4940 X 全幅 1855 X 全高 1460 mm
  • ホイールベース | 2895 mm
  • 車両重量 | 1640 kg
  • エンジン | 直列4気筒 DOHC ターボ
  • 排気量 | 1598 cc
  • 変速機 | 8速 AT
  • 最高出力 | 225 ps(165 kW) / 5500 rpm
  • 最大トルク | 300 N・m / 1900 rpm

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Text : Takeshi Sato

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