人気SUVの対極として光る一台　BMW「アルピナB8グランクーペ」

昨今のゴルファーズエクスプレス（ゴルフに最適な一台）の筆頭カテゴリーはSUVということで間違いないだろう。その次に来るのは4ドアクーペあたりか。数ある4ドアクーペの中でも、今回試乗したBMW「アルピナB8グランクーペ」はその最高峰といえる一台だ。

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BMWアルピナの定石通り、B8グランクーペはBMW「8シリーズ」をベースとして“アルピナ化”されている。アルピナ化とは、構造的な変更を含んだエンジンチューニング、AWDシステムやギアボックスの専用マッピング、上質なインテリアの構築、そして専用開発のタイヤ＆ホイールを含む足回り、控えめだが効きのいいエアロパーツに変更したものだ。

こう書くと、ひと通りのチューニングパーツを盛り込んで、アルピナらしい見た目を完成させることが目的に思えるかもしれないが、そうではない。実際の手順はむしろ逆で、まず“アルピナらしいドライバビリティ”という伝統的なテイストが存在しており、そこに到達する手段として、20本スポークの“アルピナ・クラシックホイール”をはじめとするアイコニックな専用パーツの数々が必要になる。

ホールド感の高いドライバーズシートに座り、走り始めて感じるのは、見た目の印象と実際のギャップだ。アルピナがチューニングした4.4リッター・V型8気筒のビターボ（ツインターボ）エンジンの621psという最高出力や、スペックシートに刻まれた324km/hという、とてつもない最高巡航速度からは想像がつかないほどのしっとりとした乗り心地や加速感。それこそが“アルピナらしいドライバビリティ”の答えである。

街中を流して走る際のパワーの出方はすこぶる紳士的で、スーパースポーツ級の怪力をさとらせない。そんな控えめな性格は乗り心地にも当てはまる。タイヤは専用開発の「ピレリPゼロ」で、21インチ径、35扁平という攻撃的な見た目なのだが、乗り味にゴツゴツとした不快な感覚は一切混じっていない。また、路面の不整や轍にステアリングを取られるようなこともない。

パワーと上質な乗り心地を誇るアルピナB8の、真のパフォ－マンスを体感できるのは高速道路だろう。排気音はV8らしいビートを奏でるが、ボリュームは控えめ。8速ATによるシフトも滑らかだ。そして前述したように乗り心地も良好なので、あまりスピードを感じないまま、いつのまにかハイペースで走っていることに気づかされるが、疲れることなく目的地まで到着できるのだ。

これらの基本的なキャラクターは「B3」や「B5」といった他のアルピナにも通じている。だが今回のアルピナB8グランクーペにはこれらのキャラクターに加え、さらなる特徴がある。それは長いホイールベースを活かした直進安定性の高さ、そして後輪操舵システムによる高いコーナリング性能だ。直進性とコーナリング性という、一見相反する運動性能が高いレベルで同居する。つまりラグジュアリーからスポーティまで、走りのカバレッジが広いと言える。

アルピナ随一ともいうべき運動性能の高さ、タイトでスポーティなコックピット、そして4ドアクーペならではの引き締まったスタイリングなど、アルピナB8グランクーペの特徴は、SUVモデルに対するアドバンテージでもある。

昨今のSUVも十分にスポーティな性能を備えているが、それでも紳士的な美しさやシャープなハンドリングという点では４ドアクーペには及ばない。ここはひとつ、SUVモデルだけでなく、アルピナB8グランクーペのようなハイエンドの４ドアクーペに注目してみてはいかがだろう。きっとクルマの新たな楽しみを発見できるに違いない。