レクサスはただ自動車をつくるだけではなく、豊かな時間や驚くような体験を提供するブランドを目指しているという。ラグジュアリークーペ「LC」から登場した新型オープンカー「LC500 コンバーチブル」は、“レクサスらしいレクサス”の一台といえそう。試乗記で、そう思えるクルマの仕上がりを紹介したい。
最初にお伝えしたいのは、今回のコンバーチブル登場で、LCの外観デザインが、緻密に計算された造形であることを改めて理解できたということだ。クーペと比較すると、コンバーチブルはトランク部分が出っ張っていたり、幌を閉じた時のスタイルにぎくしゃくしたものを感じたりと、どこかに破綻が生じるものだ。けれども、このクルマにはそれがない。
トランク部分の美しいラインを崩さずに幌を格納できるのは、設計段階からコンバーチブルの追加を想定していたからで、“とってつけた”感がない。幌を閉じた状態のルーフラインも、このままクーペにしてもいいぐらいに整っている。インテリアは一見すると、ラグジュアリーモデルにしてはおとなしいと感じる。けれども時間が経つにつれ、レザーの手触りのよさ、そこに施されるステッチの美しさなどが、じわじわと心に迫ってくる。きっと乗れば乗るほど愛着が湧くだろう。
走り出して気づくのは、ステアリングホイールの手応えが良いことだ。路面と接するタイヤがどんな仕事をしているのか、手に取るように伝わってくる。ステアリングホイールのレザーの手触りの滑らかさと相まって、車線変更で操舵することすら楽しくなってくる。ドライブモードセレクターで「コンフォート」を選択すると、乗心地は実にマイルドだ。路面の凸凹を乗り越えた瞬間のショックを、しなやかに吸収する。ただし高速道路では、個人的な好みからするとややふわつく。「スポーツ」を選ぶと、上下方向の揺れがすっと収まり、気持ちよく走ることができる。このあたりのセッティングが、実にキメ細かい。
キャラクターをひと通りつかんだところで、屋根を開けた。スイッチ操作ひとつで、約15秒でオープンになる。自然吸気のV型8気筒エンジンの快音が、ダイレクトに耳に飛び込んできて心地良い。特に、3500rpmあたりから盛り上がる、「クォーン」という澄んだ音にはシビれた。
最近のスポーツカーに見られる演出過多の音ではなく、ナチュラルな良い音だと感じさせる。このあたりは、吸気音を車内で共鳴させるサウンドジェネレーターという仕組みを綿密にチューニングした成果なのだろう。レクサスは500台限定モデル「LFA」を開発する際にヤマハと共同で音響についての研究を重ねており、そのノウハウが生かされているのかもしれない。いずれにせよ、この音のために買ってもいいと思えるぐらいのクオリティだ。
もうひとつ、音の良さに浸れるのは、10速ATの手柄でもある。通常は早め早めにシフトアップするが、アクセルペダルを踏み込むとドライバーの心を見透かしたように、どんぴしゃのタイミングでギアを落とす。狙い通りにエンジン回転数が跳ね上がるから、排気音がさらに耳に心地よく響くのだろう。なお、クーペには用意されるハイブリッド仕様は、コンバーチブルには設定されない。重量増を嫌ったのかもしれないし、バッテリーやモーターを置くスペースの問題かもしれないが、自然吸気V8とコンバーチブルの組み合わせが、ほかでは得難い体験として最も価値を感じられやすいようにも思う。
ワインディングロードでは、良好なステアリングフィールと、余裕のあるエンジンのおかげで楽しく走れる。シャープさや速さというよりも、心地良いというのがこのクルマの走りを表現するのにふさわしい言葉だ。最高出力477psだから、もちろん速いは速いのだけれど。エアコンはルーフの状態に応じて自動で制御を切り替えるようになっている。梅雨の晴れ間、日差しの強い日でも車内は快適だった。
このクルマが細やかな「おもてなし」の心に満ちているのは、豊かな時間や驚くような体験を提供することを目指すレクサスのブランド理念があってこそ。そういう意味で、私は最も“レクサスらしいレクサス”に思えた。時間や体験をどう感じるか? はまさに個人的なことなので五感を研ぎ澄ませて試してほしい。
レクサス LC500 コンバーチブル 車両本体価格:15,000,000円(税込)
- ボディサイズ | 全長 4770 X 全幅 1920 X 全高 1350 mm
- ホイールベース | 2870 mm
- 車両重量 | 2050 Kg
- エンジン | V型8気筒
- 排気量 | 4968 cc
- 最高出力 | 477 ps(351 kW)/ 7000 rpm
- 最大トルク | 540 N・m / 4800 rpm
- Text : Takeshi Sato
お問い合わせ先
-
レクサスインフォメーションデスクフリーダイヤル:0800-500-5577
lexus.jp