クルマの世界では変えることより変えないほうが難しいと言われる。ランドローバーの歴史を変えた傑作と言われるイヴォークの初のフルモデルチェンジは、初代の美点を引き継いでなお、中身を確実に進化させるという大仕事だったであろう。日本の道路事情に最適なサイズのランドローバーとして、新型イヴォークの変わった部分と変わっていない部分を感じながらテストドライブしてみた。
Paragraph01 傑作を変えるのは難しい
新しいウェアに出会うとその場のノリで「総入れ替え!」なんてことも珍しくない。気分を変えることでスコアが伸びたりすることは実際にあるから。けれどギアの場合はそんなことをしたらタイヘン。ちゃんと馴染んでスコアが出せるようになるまで半年とか、結構かかってしまう。困るのは長年使い込んだお気に入りのクラブを新しくしたいとき、すでに新品が手に入らなくなっている場合が多いことだ。同じ名前のシリーズでも代替わりすると全くの別モノになってしまうこともある。
名前だけ残して全てを変えてしまう手法はクルマの世界にもよくあるよね。別物の方がデザイナーは仕事がやりやすく、マーケッターは新鮮さをアピールしやすいのかもしれないが、「新鮮さを優先した刷新」は、スタイルや使い勝手が気に入っていたオーナーにとってはあまりうれしくない。 ランドローバーのショールームに飾られた新型のレンジローバー・イヴォークを見た時、これまでの初代のイヴォークとどこが変わったのかよくわからなかった。精悍なマスクとワイドなボディ、そしてスパっと水平に切り詰めたように低いキャビン。それはどこからどう見ても、これまで見慣れた傑作、初代イヴォークそのものだった。
2011年に初代イヴォークがデビューし、話題となったのはそのスタイリング。イヴォーク以前もランドローバーは少しずつ洗練されてきていたが、それでもなおイギリスの田舎風のテイストで満たされていた。ところが初代イヴォークはSUVというよりもスポーツクーペのようなスピード感と都会的な緊張感を前面に押し出すことで、ランドローバーのブランドイメージをがらりと変えることに成功した。 デビュー当時、傑作と言われたイヴォークのスタイリングは8年の歳月が経った今も新鮮そのもの。だから今回ランドローバーのデザイナーが下した決断もまた「変える必要なし」だったのだろう。
Paragraph02 格段にアップしたプレミアム感
初代のデザインを忠実に受け継いでいる新型イヴォークだが、近寄ってみると全体の雰囲気に“異変”が起きていることがわかった。ボディ表面に凹凸が減り、全体的にツルっとしている。最もわかりやすい部分がアクセスするとき以外は引っ込んでボディパネルと同化しているドアハンドルだろう。ボディの側面のキャラクターラインが減ったことで、ゆったりとした高級感も感じられるようになった。
一方でインテリアは、外観以上の高級感を与えられている。ガラス張りのようなセンターコンソールは上下2段のタッチスクリーン式になっており、ダッシュパネル全体も同じレンジローバーのヴェラールとよく似たモダンなデザインに改められている。レンジローバーを名乗るにはちょっとだけフレンドリーな感じを含んでいた初代と比べ、新型イヴォークの室内ははっきりとプレミアム感が増しており、スタイリングとのバランスが取れている。
とはいえ新型レンジローバー・イヴォークは見た目のためだけにモデルチェンジされたのではないのだ。先代から引き継いだ部品はドア関係の数個だけと言われている新型だが、そこまで完全な刷新をするにはちゃんとした理由がある。今回試乗したP300 HSE MHEVというグレード名にそのヒントが含まれている。
Paragraph03 中身はMHEV化も含んだ完全刷新
日本に導入される新型のレンジローバー・イヴォークに用意されるパワーユニットはディーゼル1種類とガソリンが3種類。中でも最もパワフルなガソリンユニットであるP300 は2リッター4気筒ターボのインジニウム・エンジンに48Vのスターター・ジェネレーターが組み合わされたMHEV(マイルドハイブリッド)となっている。また今後3気筒エンジンを搭載したPHEV(プラグインハイブリッド)モデルも予定されている。つまり床下にハイブリッドシステム用のバッテリーやコンバーターといったパーツをすっきりと収める必要があることからも、新型イヴォークはフルモデルチェンジしなければならなかったのだ。
マイルドハイブリッドモデルも加わった新型イヴォークだが、ボディの寸法にはほとんど変化はない。今回のフルモデルチェンジでも全長で25mm、車幅は5mm、全高で10mmほど拡大されているが、取り回しには全く違和感がない。一方ホイールベースは20mm伸ばされており、リアシートの足元をゆったりしたものにしているのがいい。
スタイリッシュなデザインを追求することでランドローバー最大のヒット作となったイヴォークだけに、そのラゲッジスペースは広大とは言えない。とはいえゴルファーにとっての使い勝手は必要にして充分。コンパクトなボディによる取り回しやすさも加わるので、1台で全ての用途をこなしたい人に最適なランドローバーとなっている。 キャディバッグは1本ならリアエンドに横置きが可能で、2本までなら重ねるかたちで横に積める。3本となると、3分割となるリアのシートバックを倒して縦方向にすっきりと搭載することができる。荷台の床面が高く、荷物の出し入れがしやすいのはSUVならではの美点だ。
Paragraph04 ドライブフィールも進化
新型レンジローバー・イヴォークを理解するためには、カタログを熟読するより先に試乗してみたほうがいい。初代イヴォークのオーナーなら格段に増したプレミアム感に驚くはずだし、イヴォークは初めてという人でも、見た目の高級感にマッチしたシャープでありながら滑らかなドライブフィールを感じられるはずだ。 ステアリングの切り込みにダイレクトに反応しつつ、少しも腰高感がないハンドリングは初代から受け継がれているが、新型はどこか一部分ではなく全体的な質感が底上げされている。だから初代イヴォークに乗っていても何の不満もないというオーナーでも、新型に触れてしまうと初代が少しラフに感じられたりするかもしれない。
レンジローバー・イヴォークRダイナミクスP300 MHEVの技術的なハイライトである48VのMHEVは加速時の分厚いトルクに効いているはずだが、はっきりとその存在がわかるのは減速時だ。スピードが17km/h以下になるとガソリンエンジンが停止し、積極的な回生がはじまる。これまで捨ててしまっていたエネルギーを再利用する考え方はすばらしいし、助手席の下にバッテリーユニットが収まっているはずだが、それによって室内が狭くなったりするようなこともないのでデメリットは感じられない。
MHEVは最近多くのヨーロッパ車に採用されており、これが将来のピュアEV普及の第一歩となっていくのだろう。ランドローバーのラインナップを考えれば、イヴォークでも車重は2トン弱あって他は軒並み2トン越えなので、EV化は将来のためにも欠かせない技術といえる。
Paragraph05 クーペライクSUVの武器とは
駐車場が狭い、近所の道が狭い、もしくは平日はパートナーが乗る機会が多いからという理由で、日本市場ではレンジロイーバー・イヴォークのような比較的コンパクトなサイズのSUVの需要は今後も拡大していくはずである。とはいえクルマ選びに強いこだわりを持った方であれば、カーライフがボディサイズによって制限されることは避けたいところ。スタイリッシュで存在感があり、5ドアのSUVとして十分使えて、先進の安全装備も一通り備えており、しかも大型SUVに引けを取らないプレミアム感も欠かせない。新型イヴォークはこれらの要件を全て叶えてくれる数少ない1台といえるのだ。
そしてなによりレンジローバー・イヴォークにあって他のコンパクトSUVにはないものがある。それがクーペライクSUVの最大の武器でもあるパーソナルな雰囲気だ。普段は家族的な雰囲気を大切にしていても、いざゴルフ場へ向かう時はひとりのオトナとして、家族の匂いをさせたくない。独立した精神性を尊重してくれる、そんなスタイリッシュな雰囲気こそイヴォークの真骨頂なのだ。
初代イヴォークが気に入っていたオーナーにとって、新型は最高の入れ替え候補であるに違いない。一方、駐車場事情を含めた諸々を考慮していった時に新型レンジローバー・イヴォークしかない! と確信するかたもいるはず。ランドローバーのコンパクトな傑作はキープコンセプトで見事な代替わりを行ったと言える。
RANGE ROVER EVOQUE R-DYNAMICS P300 HSE MHEV
メーカー希望小売価格:メーカー希望小売価格:7,470,000円~(税込)
- ※写真はオプション装着車。
- ※表示価格にはオプションは含まれておりません。
- ※価格には保険料、税金(消費税除く)、自動車リサイクル料金、その他登録等に伴う費用等は含まれておりません。
- ボディサイズ |全長4380×全幅1905×全高1650mm
- ホイールベース |2680mm
- エンジン | ガソリン直4ターボ+48V MHEV
- 排気量 | 1997cc
- 最高出力 | 300ps(221kW)/ 5500-6000rpm
- 最大トルク |400Nm / 2000-4500rpm
- RANGE ROVER EVOQUE R-DYNAMICS P300 MHEVのトピック
- ●初代から受け継がれたスタイリッシュボディ
- ●SUVでありながらスポーティな見た目とシャープな走り
- ●48V MHEVの低速トルクと先進性
- Photo : Koichi Shinohara
- Text : Takuo Yoshida
お問い合わせ先
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