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ユーモアは才能ではなく身につけるもの/社会学者・瀬沼文彰

独自の審美眼と洞察力を持ち、各分野で活躍するスペシャリストを毎月お迎えして、センスの正体について探っていく連載「男のセンス学」。第8回は元お笑い芸人で、現在は社会学者として大学でユーモア研究を行っている瀬沼文彰さんが登場。独自の視点からユーモアの磨き方のコツを伺いました。

古くからユーモアは「紳士のたしなみ」と言われてきましたが、コミュニケーションが重要視される現代では、その価値がさらに高まっています。笑いは、人間関係を円滑にするだけでなく、その人の価値観やバックグラウンドを映し出す鏡でもあります。どんな時に笑い、どのように笑わせるかは、その人らしさや遊び心、余裕を自然と伝えます。また、緊張感やストレスを軽減する効果もあり、アメリカでは職場やチーム内の心理的安全性の向上や創造的なアイデアを引き出すきっかけになるものとして、注目されています。

さらに、笑うという行為は、相手へのリスペクトを示す記号にもなっています。しかし日本では、「ユーモアを操ることは難しい」と捉えられがちなのか、取り組む前からあきらめてしまっている人が多いのではないでしょうか。

ユーモアは才能ではなくスキル

「笑いを取る・作る」と訳されることが多いユーモアは、日本では生まれつきの才能と見なされがちですが、実は努力によって誰でも身につけられる技術です。スタンフォード大学ビジネススクールで人気講義を担当するジェニファー・アーカー氏も「遺伝で決まるのではなく、トレーニングと実践によって強化されるスキル」と主張しています。


では、どのように学べばいいのでしょうか。それは、優れた話術を持つ人を観察することが近道です。ライブや寄席、テレビでトーク番組を見ることは非常に効果的です。ちょっとした気遣いやエピソードへの展開のコツ、話の盛り上げ方や聴き方など、学ぶ姿勢で見ると視点が変わってきます。

私の場合、大学教員として授業に役立つ技術を、バラエティ番組から学ぶことがあります。例えば、芸人さんが通販番組で商品やサービスの魅力を、どのような言葉やトーンでワクワク感を伝えているのかを観察しています。彼らは身近なテーマを使い、難しい話を分かりやすく伝えるのが上手です。たとえば、「仕事量が多すぎてキャパオーバーである状況」を「ゴミ屋敷でルンバを使うようなものだ」と表現しているのを聞いたことがあります。このようなユーモアに富んだ比喩表現は、複雑な概念を直感的に伝える効果があります。そのため、役立ちそうなフレーズは日々メモを取るようにしています。

コミュニケーションはお互いに作るもの

笑いは一人で完結するものではありません。例えば、「おやじギャグ」をどう考えればいいでしょうか。発した瞬間、煙たがれてしまうこともありますが、「つまらない」と一蹴してしまってはそれまでです。会話は皆で盛り上げていくことが鉄則ですが、場を和ませる役割が特定の人に押しつけられがちな状況は少なくありません。つまらないと思っても、それを補う姿勢が大切です。フォローを重視するコミュニケーションが日本に浸透すれば、もっといろんな人が気軽に冗談を言えるようになるのではないでしょうか。

日常に潜む「面白さ」を探してみる

自ら笑わせることに抵抗がある場合は、「ユーモアを探す」ことから始めてみてはいかがでしょうか。街中の看板やスーパーのポップ、日常のちょっとした出来事に目を向けるだけで、新たな発見があるかもしれません。私自身は、スーパーで「今日だけ茨城県産輸入メロン」というポップを見て、面白いなとニヤニヤしてしまったことがあります。

「面白いこと」に気づけるようになると、何気ない会話の中にも笑いを見つけ出すことができます。こうしたスキルを持つ人が増えれば、日本社会全体がもっと楽しい雰囲気になるのではないでしょうか。自分の発言によって周りの人の笑いを引き出せれば、職場などでも安心して意見やアイデアを話せる環境が生まれます。

ゴルフでのユーモア

ゴルフを楽しく笑いのあふれる時間にしたければ、ちょっとした自身の失敗を笑いに変えることが効果的です。失敗とユーモアは相性が良く、その場の雰囲気を和ませるカギにもなります。例えば、ラウンド中の昼食やカートでの移動中などに経験談を話してみるのも一つの方法です。自己開示は、他者の共感を引き出し、より良い人間関係を築くための一助となるでしょう。 私自身のラウンド中のエピソードを紹介します。

「うちの4歳の娘はどんぐりが好きなんです。この間ラウンド中にカート道を走っていると、宝石みたいにキラキラ光る大きなどんぐりを見つけました。『娘が喜ぶ顔が見たい』と思い、仲間にカートを止めてもらって拾いに行ったのですが、手に取った瞬間、気づいたんです……それ、アーモンドチョコだったんですよ。しかも夏場だったので、手がベタベタになるわ、娘の笑顔も持ち帰れないわ、その後はスコアがガタガタになるわで散々でした」。

このような失敗談は場を和ませるだけでなく、関係を深める良いきっかけになります。日本では、笑いに関する学びはまだ広がっていませんが、ぜひ皆さんもすぐに始められるユーモアセンスの磨き方を実践してみてください。

瀬沼文彰

西武文理大学准教授。桜美林大学非常勤講師、追手門学院大学および上方文化笑学センター客員研究員、日本笑い学会理事を兼務。吉本興業にて、瀬沼・松村というコンビで芸人(1999-2002)として活動。専門はコミュニケーション学や笑い文化の研究。著書に『キャラ論』『なぜ若い世代はキャラ化するのか』『笑いの教科書』『ユーモア力の時代』などがある。

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Illustration : Masashi Ashikari

Edit : Yu Sakamoto

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