8月も中盤にさしかかりましたが、まだまだ暑い日々が続いています。そんな夏の日差しを彩る作品を音楽評論家の渡辺 亨さんにセレクトしていただきました。
MARC JOHNSON 『THE SOUND OF SUMMER RUNNING』(1997)
アルバム・ジャケットは、雲ひとつない空のもと、野原でジャンプしている少女を下方から撮ったカラー写真。さらに裏ジャケットやブックレットにも、晴れ渡った空のもとで飛び跳ねている男の子と女の子、それも白人やアフリカ系の子どもたちを、さまざまなアングルでとらえたカラー写真が載っている。
アルバム・タイトルの『The Sound of Summer Running』(駆け回る夏の足音)は、1940年代後半から著作活動を始め、2012年に亡くなった作家レイ・ブラッドベリが遺した短編のタイトルの引用だ。3曲目には、このタイトルに由来する「サマー・ランニング」という作品が収録され、パット・メセニーとビル・フリゼールの二大ギタリストがフィーチャーされている。彼らのエレクトリック・ギターのソロとアコースティック・ギターのコード・ワークを軸に、まさしく“夏が駆け足でやって来る”ような疾走感が生み出されている。
マーク・ジョンソンは、不世出のジャズ・ピアニスト、ビル・エヴァンスの最後のトリオのメンバーだったベーシスト。本作には前記の曲に加えて、6曲目「ポーチ・スウィング」(玄関先につり下げられたブランコ式のイス)や、8曲目「マックスとベンの冒険」といった曲が収められている。これらの曲名からも想像できるように、アルバムに収められているのは、広々とした草原が目の前に浮かび、ノスタルジーがにじんでいる“アメリカーナ”としてのジャズ、しかも童心を呼び覚ますようなインスト(器楽曲)だ。
ラウンドを翌日に控えたゴルファーは、興奮のあまり前夜はよく眠れないかもしれないし、ゴルフ場に向かう道程は、なおさらわくわく感が止まらないだろう。本作はそんなゴルファーたちの心の中にも青空が広がる夏の季節にふさわしい。
レイ・ブラッドベリの『たんぽぽのお酒(英題:Dandelion Wine)』(1957)は、1928年の米国の架空の小さな町を舞台に、12歳の少年ダグラスのひと夏を描いた、作者の半自伝的作品。この長編には、“夏の始めに手に入れた新しいスニーカーがダグラスの心を踊らせる”と書かれているが、新しいゴルフクラブやウェアでラウンドに臨むゴルファーも同じ気持ちだろう。
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渡辺 亨(わたなべ・とおる)/音楽評論家、選曲家、DJ
1959年生まれ、札幌市出身。雑誌や新聞、Web媒体で執筆するほか、ラジオやテレビに出演。著書に『音の架け橋ー快適音楽ディスクガイド』や『プリファブ・スプラウトの音楽』、『女性シンガー・ソングライターの系譜』などがある。NHK-FM『世界の快適音楽セレクション』の構成選曲、および自身のコーナーにレギュラー出演している。
Edit : Yu Sakamoto