海外移住してフルリモートで働くって? 「デジタルノマド」に聞く生活のリアル

ジョージア 山に囲まれた首都・トビリシではどこからでも絶景が臨める

朝起きて、そこが海外だったら…なんて想像したことはあるだろうか? 世の中が変化したことで、私たちは場所に縛られない生き方を選択できるようになった。なかには都会の喧騒を離れ、自然の多い地方や、言語の異なる国へ移住した人も。しかし、キャリアの真っ只中にある“働き盛り世代”にとって、生活環境を一新するのはそう簡単ではない。実際に海を渡った人たちは何を考え、どのように“いま”を生きているのか? 夢物語を現実にした人物に話を聞いた。

「いまはエアビーにいます。ちょっとボロくて、床が斜めっていて怖いですけど(笑)。ワインが有名なので、中庭にはブドウがなっているんですよ」

(日本時間)午後4時にオンラインミーティングを開始すると、画面にパーマがかかった髪型が特徴的な男性が現れた。背景には異国らしい内装が見え、窓から柔らかい日差しが差し込んでいる。そうだ、画面の向こうは外国なのだ。ヨーロッパの最東端、5000メートル級のコーカサス山脈の懐に位置するジョージア。日本との時差はマイナス5時間だから、午前11時ということになる。

男性の名はKURUMA氏。石川県出身の44歳で、大学卒業後は東京都内でIT業界を中心にさまざまな仕事を経験してきた。2018年にベトナムの日系企業に転職して現地に移住、2021年からはフリーランスになった。現在はジョージアの首都・トビリシに拠点を構え、デジタルマーケティングやWeb制作を中心に、フルリモートの「デジタルノマド」として生活を送っている。

世界最古のワインの産地であるジョージアではワイナリーツアーを気軽に楽しめる

「昔の自分には想像できなかったでしょうね」。こざっぱりとした見た目に、軽やかな語り口。四十路を前に海外移住するくらいだから、さぞかし冒険家のような人柄なのかと思いきや、もとはかなりの慎重派だったという。

「若い頃を振り返ると、ビビりで『エイヤ』ってとりあえずやってみるのができない人間でした。何回も石橋をたたいて、勝ち筋が見えたら動くみたいな。そもそも海外勤務って“超エリート層”にしかできないイメージがあったので、自分には無理だ、とはなから諦めていました」

ジョージア料理はワインとの相性ばっちり! 日本人の口にも合う

そんなKURUMA氏が一大決心をしたのは、人生のターニングポイントというべき体験に起因する。

「離婚係争をしていたんです。3年ほど。それが本当に、めちゃくちゃしんどかった…。時間もお金もたくさん失いましたし、仕事のパフォーマンスも落ちて、周りは昇進しているけど僕だけ置いていかれて。全てが終わったときに、『なんらかのリスクを負わずして、これ以上人生は面白くならないだろう』と思ったんです」

どん底からはい上がって“大まくり”するには、人生を賭した行動をするしかない。係争中に一時的に滞在していたシェアハウスで、海外で暮らしたことのある人々と交流する機会があったことも後押しとなり、2017年の夏頃に移住を決意。翌年1月から海外生活がスタートした。

トルコ 街中には人懐っこいネコがたくさん

当然ながら初めのころはカルチャー・ショックがいっぱいだったという。市場の近くに住んでいたベトナムでは、住宅街に響く大音量カラオケや、路上屋台から漂う強烈なにおいに面食らった。あるときは、レストランで食事を終え、店を出たところで器に大量のネズミがたかっているのを目撃したこともある。「そういう場所にはもう行かない(笑)。たくましくはなりましたね」。苦笑まじりに話す表情はどこか楽しげだ。

また、ビジネスの現場でも文化の違いは大きい。「ベトナム時代、会社から出されたミッションは『売り上げを上げてください』、それだけでした」。待っていたら仕事が来るわけでも、誰かが手を差し伸べてくれるわけでもない。マニュアルや研修が充実している日本の大企業では考えられない環境だろう。しかしその分、「失敗を恐れず、とにかくやってみる」ことの重要性を学んだ。実際に自分の手を動かし、あらゆることを自力で進め、みずからの市場価値を高めていった。

「行動のスピードがとにかく速くなりました。海外にいると生活もビジネスもチャレンジ要素が強い。大掛かりなプロジェクトに時間を割くというよりは、課題を見つけて、小さく素早く改善していく。そういったマインドの人が多くいることは刺激になります」

ベトナムで暮らしていたときの趣味は離島ダイビング ※写真はバリ島

そして、現在。KURUMA氏は会社から独立してフリーランスとなり、国内外の企業からリモートで仕事を受託するデジタルノマドになった。平日は毎朝7時30分に起床し、9時から午後6時まで仕事をする。どこでも作業できるから、パソコン一つを持って近くのカフェに行くことも日常茶飯事だ。「旅先ではWi-Fiが安定する場所を探すのが癖になりました」。空港ラウンジやバスでの移動中にパソコンを開くことも少なくない。

世の中的には“リアル回帰”の流れもあるが、フルリモートということに不安はないのか? KURUMA氏には心掛けていることがあるという。

「僕の顧客には日本やベトナムの企業が多いので、なかなか会う機会がないのがほとんど。その分信頼してもらえるように、レスポンスの速さや情報の正確性など、コミュニケーションに関してはとても気を遣っています。チャットだけでは意思の疎通が難しいときにはオンラインミーティングの場を設けて、距離を感じさせないようにしていますね。

もちろんリアルで会うことも重視しています。海外で出会う人の中には実業家やフリーランスが多く、雑談をきっかけに仕事が始まることもよくあるので」

スペイン サンセバスチャンではサッカー観戦も醍醐味の一つ

しかし、夢の海外生活。もちろん働いてばかりではない。「土日は基本的に休んで、週に2、3回は人にも会うようにしています。仕事は好きですけど、仕事ばっかりしていると五感が鈍る気がして。“自分が楽しいと感じるか”が最優先です」。外国の空気に触れることは自分の引き出しを増やすことにもつながる。

ヨーロッパとアジアの中間地点にあるジョージアからはさまざまな国へ足を運びやすい。昨年は学生時代以来となるスペインを訪れた。一人旅だったが、近隣国にいた“ノマド仲間たち”が途中で合流し、バル巡りを楽しんだ。「こんどの休日はスペイン集合ね」などと、フットワーク軽く行動ができるのもノマドワーカーの醍醐味かもしれない。

スペイン サグラダ・ファミリアは訪れるたびに姿を変える

移住生活をスタートして6年が経ったいま、KURUMA氏はあることに気がついたという。

「自分が手にしているものに執着する必要って、意外とないんです。日本にいた頃は会社をクビにならないようにとか、家も車もあったから、それを手放すのがすごく嫌でした。でも、お金は失っても、頑張りやアイデア次第でまた入ってくる。物だってまた買えばいい。

何か新しいことを始めるとき、年齢って本当に関係なくて。僕は30代後半で日本を飛び出して、人生が変わりました。とにかくまずはやってみる。行動さえすれば風向きは変わるし、納得するまで続ければ、どのみち後悔はしない」

執拗に石橋をたたくことはもうない。そうこうしているうちに、目の前を通りかかる“楽しいこと”を見逃すかもしれないからだ。38歳で先の人生を憂い、地位もキャリアも捨てて日本を飛び出した。KURUMA氏はきょうも、トランク一つだけで世界中を“ノマド”している。

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COOPERATION

KURUMA

1979年生まれ。大学卒業後はアパレルメーカーの営業職やIT企業のWebディレクター、デジタルマーケティング職などさまざまな業務を経験。2018年よりベトナム・ホーチミンの日系デザインエージェンシーに転職し、Webサイト制作や組織マネジメントなどに3年間従事する。2021年、41歳のときにフリーランスに転身。現在はジョージアに拠点を構え、フルリモートの「デジタルノマド」として働く。

移住の際に「コミュニケーション目的で」ゴルフセットを7万円で購入し、航空料金にプラス4万円を支払って現地に持ち込んだ。しかし上達が見られなかったため、4、5回ラウンドして挫折した。

運営ブログ https://kuru-log.net/

Edit & Text : Hiroto Goda

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