旅する写心~South To South

1987年、
ニュージーランドのクィーンズタウンの
ゴルフ場とホテルに
投資しないかという話が舞い込んだ。
時代はバブルの真っ盛り。
その話を聞いた男は迷った。
帰国して、学生時代の同級生に相談すると
ゴルフ好きな仲間は「やってみろ!」と
背中を押してくれた。

その男とは、
ハーバードのビジネススクール出身で、
家業は文具店という石井栄一さんだ。
初めてその土地を訪れ、
湖と山と水と空気の美しさ、
人口よりも羊の数の方が多い
何もない街に驚いた。

そんな場所に
一大ゴルフリゾートを造ろうと決心した。
はじめは苦労の連続だったが、
1999年に同国でAPECが開催され、
クリントン大統領が宿泊して
ゴルフを楽しんだことが世界に報じられると
少しずつ風向きが変わってきた。

またニュージーランド政府が、
観光業を一番の経済資源とする
方針を決めたことで、
ミルブルックは世界中の注目を集めた。
今では終(つい)の住処として
世界中のゴルフ愛好家が家を持ち、
ゴルフライフを愉しんでいる。
一度でもここを訪れた人は
己の人生を見つめ返し
ここに住みたいと思うようになる。

かくいう私も写真集の制作で
訪れるたびに虜になった。
先週は、日本人選手が多数出場した
豪州&アジアツアー「NZ Open」が開催され、
幡地隆寛プロが日本人として
初のチャンピオンに輝いた。
男のロマンが世界を動かしたのだ。

宮本 卓Taku Miyamoto

1957年、和歌山県生まれ。神奈川大学を経てアサヒゴルフ写真部入社。84年に独立し、フリーのゴルフカメラマンになる。87年より海外に活動の拠点を移し、メジャー大会取材だけでも100試合を数える。世界のゴルフ場の撮影にも力を入れており、2002年からPebble Beach Golf Links、2010年よりRiviera Country Clubほか、国内数々のオフィシャルフォトグラファーを務める。また、写真集に「美しきゴルフコースへの旅」「Dream of Riviera」、作家・伊集院静氏との共著で「夢のゴルフコースへ」シリーズ(小学館文庫)などがある。全米ゴルフ記者協会会員、世界ゴルフ殿堂選考委員。

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