
フルサイズSUVとコンパクトなモデルを所有していたとして、あと一台ガレージに余裕があるとすれば、どんなクルマがふさわしいか? 大して荷物を積めなくても問題はないし、乗員も2名でいい。実用性を極限まで削る代わりに、普通のクルマでは得られない快感、研ぎ澄まされたドライバビリティを持つ一台を求めたい。
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新車の中から選ぶとすれば、フランス代表のアルピーヌ「A110」は有力な候補となる。2017年、ルノーがアルピーヌ・ブランドを復活させ、2シーターのミッドシップスポーツカーA110をリリースしたことは、驚きをもって迎えられた。EVシフトが加速する時代に、限られた販売台数しか見込めないスポーツカーのために専用シャシーを開発するのは、異例中の異例といえる。

アルピーヌがA110のハイパフォーマンスバージョン「A110 R」を発表したのは2022年後半。そして今回試乗した「A110 R チュリニ」は、その最新の派生モデルとなる。“チュリニ”とは、モンテカルロラリーなどのコースに含まれる険しいフランスの峠の名称。その名が示す通り、徹底したハンドリングマシンとしての個性を打ち出した一台だ。

ボディは随所がブラックアウトされ、ひと目でスペシャルなモデルであることがわかる。フロントスプリッターやボンネット、ルーフ、リアウインドー、そしてリアスポイラーはすべてカーボン製へと変更され、軽量化とダウンフォース増加、さらには空気抵抗の低減が図られている。さらに、18インチのGT RACEホイールも1本あたり約1kg軽くなり、標準モデル比で20kgもの軽量化が達成されている。

車高は専用サスペンションにより10mmローダウン。加えて、セミスリックタイヤであるミシュラン「パイロットスポーツカップ2」を装着し、極限のグリップ性能とシャープなハンドリングのバランスを取っている。

ドアを開け、キャビンを覗き込むと、一般的なスポーツカーの快適性など一瞬で意識の外へ飛ぶ。カーボンファイバー製のフルバケットシートと6点式ハーネスが備わり、ストイックな競技車両そのもの。シートに体を縛りつければ、もはやくつろぐことはできない。ただひたすら、走ることに没頭するしかない。

1.8リッター、直列4気筒ターボエンジンは300psを発生。スロットルを踏み込むと、回転数を問わず瞬時にパワーが炸裂し、リアタイヤが路面をしっかりとつかむ。排気音も刺激的で、アクセルを開けるたびに背筋がゾクッとするような高揚感が押し寄せる。

ステアリングは小径で、コーナーへ切り込むと軽量なボディが瞬時に向きを変える。通常のA110はサスペンションがよく動き、適度にロールしながら親しみやすい挙動を示すが、A110Rチュリニは別物。剛性感が増し、タイヤが路面を捉えた瞬間に「行ける」と確信できるほどシャープな動きを見せる。ツイスティな峠道を駆け抜ける快感は、まさに格別のものだ。

ただし、単なる移動手段としてはハードだ。フルバケットシートはリクライニングしないため乗降性も悪く、クルーズコントロールは装備されているがアダプティブ機能はない。しかし幸いにも、実用的なエアコンやオーディオを備え、7速DCTによる2ペダルドライブのおかげで渋滞のストレスを軽減できる。

ノーマルのA110でも、すでに刺激に満ちたピュアスポーツだが、A110 R チュリニはそのさらに上を行く。クルマに対して相当な情熱を持つ熱狂的な愛好家ならば、このクルマを選ぶ価値は確実にある。

アルピーヌ A110 R チュリニ 車両本体価格: 1610万円(税込)
- ボディサイズ | 全長 4255 X 全幅 1800 X 全高 1240 mm
- ホイールベース | 2420 mm
- 車両重量 | 1100 kg
- エンジン | 直列4気筒ターボ
- 排気量 | 4395 cc
- 最高出力 | 300 ps(221 kW)
- 最大トルク | 340 N・m
- 変速機 | 7速 DCT
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Text : Takuo Yoshida








