マセラティの新型「グランカブリオ」は今年の2月に発表され、つい先ごろ上陸を果たしたばかり。2ドアのオープンスポーツカーで、4シーターであること、レーシングの世界にも通じるパワフルなエンジンを搭載し、内外装はすこぶる豪奢な仕立てになっていることが特徴だ。
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2007年にデビューした先代と同じく、2ドアクーペの「グラントゥーリズモ」のオープン版。このため機構面はグラントゥーリズモと共通で、鼻先には市販車として世界初となるプレチャンバー(F1などのモータースポーツでも活用される技術)を備えた強心臓、3リッターV6ツインターボエンジンの“ネットゥーノ”が据えられている。トランスミッションはパドルシフトで操る8速のAT、550psという高出力に対応するため駆動はAWD(全輪駆動)だ。
運転席に身を預けると、まず感じるのは、まるで高級セダンに乗っているかのような上質さだ。遮音性が高く、静寂に包まれた室内に、上質なレザーシートがしっとりと体を受け止める。ソフトトップを閉じている限り、まるで2ドアオープンモデルであることを忘れてしまいそうだ。
しばらくクーペのような静寂を楽しんだ後、幌を下ろすことにした。スイッチはセンターモニター内に仕込まれ、50km/h以下であれば走行中でも開閉が可能。わずか14秒でフルオープンとなり、車内が一気に開放感に満たされる。上空に視界が広がり、軽やかな風が差し込む感覚は、ただ移動するのではなく“風景の一部”になるような気分を味わわせてくれる。
ドライビングフィールもまた印象深い。まずアクセルを踏み込むと、ネットゥーノエンジンが猛然と咆哮(ほうこう)を上げる。排気音は低音のリズムを刻みつつ、耳に心地良く響き、身体へと伝わる。エンジンの咆哮に応えるように車体が路面にぐっと食いつき、しなやかに加速するさまは実に鮮やかだ。「スポーツ」モードに切り替え、さらにスロットルを踏み込むと、路面に対するシャシーの剛性感とエアサスペンションの制御がバランス良く調和し恐ろしいほどのスピードと正確なハンドリングを体感できる。
スポーツカーはドライビング自体が目的に成り得るクルマが少なくないが、“短距離走”ではもったいないキャラクターの持ち主だ。助手席にパートナーを乗せて目的地を目指す、グランドツアラー的な一台。つまりゴルファーの移動手段に最適なのである。朝の走りはじめは幌を閉じて市街地をやり過ごし、ゴルフ場が近づいてきたら幌を下ろしてスポーツドライビングに興じるといった具合である。
このうえなく快適な高速移動を楽しみたいし、たまには4名乗車でオープンエアドライブだって悪くない。スタイルはあくまで鋭くスポーティで、しかし他の輸入車とは異なる世界観を持っている。グランカブリオはあらゆるシーンをカバーできる稀有なモデルだ。 その昔は小さなオープンカーでドライビングに明け暮れたけれど今はもうすっかり落ち着いて、今は少し遠めのゴルフ場に通うのが気に入っている——そんなアクティブな紳士のライフスタイルをほどよく引き立ててくれる一台といえる。
マセラティ グランカブリオ トロフェオ 車両本体価格: 3120万円(税込)
- ボディサイズ | 全長 4966 X 全幅 1957 X 全高 1365 mm
- ホイールベース | 2929 mm
- 車両重量 | 1895 kg
- エンジン | V6ツインターボ(ネットゥーノ)
- 排気量 | 2992 cc
- 最高出力 | 550 ps(404 kW)
- 最大トルク | 650 N・m
- 0-100 km/h | 3.6 秒
- 最高速度 | 316 km/h
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Text : Takuo Yoshida