オープンボディを持ったスポーツカーの中でも、メルセデス・ベンツ「SL」はその代表格として知られている。ドイツ語で「シュペールリヒト(スーパーライト)」を意味するSLは1954年に初代モデルがデビューし、今年10月に7代目となる新型「メルセデスAMG SL」が日本で発表された。本家メルセデス・ベンツではなく、そのハイパフォーマンスディビジョンであるメルセデスAMGが手がけている点も興味深い。
ロングノーズ、ショートデッキの丸みを帯びたスタイリングと、14本の縦型ルーバーを備えたグリルの意匠は、ひと目で最新のメルセデスと分かる。一方で、そのスタイリングが同門の「AMG GTロードスター」に酷似していることが気になる人もいるはずだ。ところが意外なことに、両者の間にプラットフォームの流用をはじめとする部品の共有はないという。新型SLのアルミスペースフレームは、このクルマのためにゼロから開発された。
メルセデスの開閉可能なルーフはハードトップのバリオルーフが有名だが、新型SLは久しぶりにキャンバス地のソフトトップに立ち返っている。れにより、21kgの軽量化と低重心化を同時に実現したという。
わずか15秒で開閉するソフトトップを開け室内を覗き込む。するとリアに+2シートが追加されていることに気づく。このミニマムなリアシートは、4代目SL(R129)以来の採用で、「150センチ以下の乗員向け」となっている。現実的には居室というよりも、ラゲッジスペースとして重宝しそうだ。
新型SLの最大のトピックはパワーユニットにある。SLの心臓といえば5.0リッタークラスのV8が有名だが、日本市場に先行投入された「SL43」には2.0リッター・直列4気筒ターボが搭載されている。4気筒というとSLの車格には不釣り合いのように思えるが、AMGの伝統にのっとり、ひとりの職工が手組みするこのエンジンには最新の電動ターボを備え、圧倒的なパワーと鋭いレスポンスを両立しているという。
センターコンソールはiPad(アイパッド)のような大型のタッチパネルモニターが、最新のメルセデスらしさを漂わせている。バケット形状のAMGスポーツシートが備わっており、首元から温風が吹き出るエアスカーフ機能も付いている。
走りはじめてすぐに「これはスゴイ!」と感じたのは、やはりエンジンだった。48V駆動の電動ターボは瞬時に17万回転まで回り、ターボラグ(十分なパワーが立ち上がるまでの間)がない。いつどんなタイミングでアクセルを踏んでも、まるで電気モーターのような太いパワーが躊躇(ちゅうちょ)なくあふれ出す。パワーの盛り上がりが案外早く収束していくあたりに4気筒ターボの限界が感じられるが、それでもSL43は伝統的なSLの名に恥じない十分に速いクルマだと言い切れる。
AMG GTロードスターと比べてねじり剛性が大幅にアップしているというボディも、その質感の高さを容易に堪能することができた。オープンボディでありながら微振動はきれいに払しょくされており、乗り心地は上々。それでいてハンドリングもフロントエンジンとは思えないほどシャープに仕立てられている。フロントが265、リアが295幅の太めのタイヤを履いているにもかかわらず、クルマ全体が軽快に感じられる点も、完成度の高さを表していると思う。
V8エンジン搭載の歴代メルセデス・ベンツSLは、スポーツカーというより重厚なラグジュアリーカーといった仕立てだったが、4気筒ターボエンジン搭載の新型SLは、それこそ“シュペールリヒトの復活”とうたっていいほど、軽快なリアルスポーツカーへと生まれ変わっていた。
メセデスAMG SL43 車両本体価格: 1648万円(税込)
- ボディサイズ | 全長 4700 X 全幅 1915 X 全高 1370 mm
- ホイールベース | 2700 mm
- 車両重量 | 1780 kg
- エンジン | 直列4気筒 ターボ(48V電動)
- 排気量 | 1991 cc
- 変速機 | 9速AT(ティプトロニック)
- 最高出力 | 381 ps(280 kW) / 6750 rpm
- 最大トルク | 480 N・m / 32500 - 5000 rpm
- 0-100km/h | 4.9 秒
- 最高速度 | 275 km / h
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Text : Takuo Yoshida