腕時計は単なる時間を示す機器ではなく、その人の価値観や人となりが表れるアイテムと言っていい。数ある腕時計の中でなぜその時計を選び、どのような時をともに刻んできたのか――。今回は、大手ゴルフメーカー「キャロウェイゴルフ株式会社」で代表取締役社長を務めるアレックス・ボーズマン氏にインタビューしました。(聞き手:大久保彩=BRUDER編集)
<関連リンク> レトロ&バイカラーの“大人の旅時計” チューダー「ブラックベイ GMT S&G」―さっそく、本日身につけている時計を見せていただけますか?
今回のインタビューのために、一番好きな時計をしてきました。ブレゲの「マリーン ラージデイト 5817」です。今日は針の色に合わせて、ブルー系の洋服を選びました。この時計は、カジュアルでありながらビジネスシーンでも使えるモデルです。皆さんもご存じかと思いますが、ブレゲは高級なブランドというイメージがあり、時計好きの僕にはずっと憧れの存在で一生手に入らないと思っていました。
―どのような経緯で手にしたのでしょうか?
実は、私が50歳になった時に妻がプレゼントしてくれました。車選びにも共通する考え方ですが、僕はあまり見栄を張ることが好きではなくて、高いものをむやみに買う必要はないと思っています。ただ、僕の少しケチな性格を知っている彼女は「50歳になったんだから、長持ちする良いものを身につけた方がいい」という考えで選んでくれました。「トップが良いものを身につけていると社員が注目する。“頑張れば誰でも手に入る”というメッセージを示すことで、周りにはもしかしたら良い影響があるかもしれない」と言われ、なるほどと納得しましたね。
―奥様が選んでくれた思い入れのある時計なんですね。どんなところが気に入っていますか?
13年間所有していますが、ブレゲはすごい。形もデザインもまったく飽きません。精度はもちろん、長持ちで故障もない。使用年数や壊れにくさを考えると、すごく価値があると思います。この時計は一度も壊れたことがなく、長く持てば持つほど、妻の言葉がより理解できます。メンテナンスの費用もかかっていないので、十分元は取れていると思いますよ。
―いつ頃から時計にこだわるようになったのでしょうか?
初めての時計は、10代の頃に両親からもらいました。自分で買った最初の時計は、時間さえ分かればいいという考えで安いものだったと記憶しています。30代後半にカルティエを購入したことがきっかけで腕時計にこだわるようになり、現在は十数点ほど所有しています。
―初めての高級時計にカルティエを選んだ理由は?
カルティエは先ほどのブレゲと同様に、10年前でも今でも飽きないデザインで、正確性と壊れにくさを兼ね備えているところが素晴らしいです。ブランドの歴史や製品のストーリーを調べていていいなと思い、これまでに3~4本購入しました。今日持ってきた四角いモデルは、2004年に発表されたカルティエの「サントス 100」です。「サントス」シリーズの誕生100周年を記念したもので、タイミングを逃すと買えないと思って購入し、ずっと気に入って使っています。
―そのほかに気に入っている時計はありますか?
フランク ミュラーの「ラウンド ヴィンテージ」です。有名な「トノウ カーベックス」も3個くらい持っていましたが、フランク ミュラー氏が有名になる前に製作していた丸いケース形状とデザインに惹かれて購入しました。同ブランドではトノウ型を持っている人が多いですが、僕は初期のデザインがブランドの歴史を感じることができて面白いなと思っています。ブラックのベルトはビジネスシーンで使うことを想定して選びました。
―ゴルフシーンではどのような時計を身につけていますか?
ゴルフのようなアクティブなシーンでは、エドックスというブランドを使っています。以前はエドックスのことを知りませんでしたが、雑誌を見ていて文字盤のデザインがかっこいい時計だなと思い、興味を持ちました。お店に行って実際目にすると、僕のカジュアルな服装に合いそうな感じだったので、文字盤とラバーバンドがホワイトのモデルを購入しました。
―時計を選ぶときに最も意識していることは?
「飽きずに長く使い続けることができるか」「自分に合うかどうか」の2点を重視しています。個々のモデルよりもブランド自体に興味を持つことが多く、どのようなストーリーでブランドが誕生したのか、どのような思いでモノづくりをしているのかなどを調べるのが好きです。その上で、機能性や耐久性があり、飽きずに使い続けられるデザインのものを選ぶことが多いですね。そして、お店で着け心地や重さ、厚さなど長年使い続けられるかどうか実用面を考えてから購入に至ります。
―唐突な質問ですが、ゴルフクラブも同じように意識して選んでいるのですか?
面白い質問ですね。はい、同じ基準だと思います。特に目で見て、触って、自分に合っているかをフィッティングで確かめることは重要です。僕は長く使い続けるために、スペックで無理をしないことを心がけています。周囲の人から「もう少し上のスペックを使っても良さそう」と言われることがありますが、常に調子を維持するのは難しいと思うので、いつでも使えるものを選んでいます。あとは、ほかの人が持っているから使ってみたいとはなりにくいです。プロが使うモデルがかっこいいなと思っても、試打してみて自分に合わないと分かったら買いません。結果的に、デザイン・機能性・相性の3つを満たすものを選んでいるような気がします。
―時計選びのこだわりが御社の経営理念にもつながっているのですね
僕が時計を選ぶプロセスと同じように、ゴルフブランドを選ぶ判断基準として、企業の歴史やストーリーを重視する人がいるかもしれません。我々は“明らかに優れていて、その違いを楽しむことができる”という意味の「DSPD」(Demonstrably Superior & Pleasingly Different)というテーマを掲げています。40年前から最新技術や素材の研究など商品開発にこだわってきました。これからも社員たちが自社の商品・サービスに対して「DSPD」を意識し続けていれば、それがブランドのDNAとなり、最終的に多くのゴルファーに信頼していただけると考えています。
一生懸命仕事をして稼いだお金で製品を買っていただくことに対して、我々は感謝の気持ちを持ち、商品やサービスを通じて金額以上の価値を提供する。そして、40年間積み重ねてきたことを今後も安定的に続けていくことが、ブランドの価値につながっていくと思いますね。
キャロウェイゴルフ株式会社 アレックス・ボーズマン
1959年、アメリカ・インディアナ州生まれ。ハワイ大学卒業後の83年来日、90年まで日本の広告代理店に勤務する。その後、日本にあるアメリカのタバコ会社を経て、97年キャロウェイゴルフ株式会社の前身であるERCインターナショナル株式会社にマーケティング・ディレクターとして入社。2001年代表取締役社長に就任。
- STAFFスタッフ
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- Photo
- Takahito Ochiai
- Edit & Text
- Aya Okubo