自分の意思でアクセルペダルを踏んでいるのにもかかわらず、背中を蹴られたような加速の鋭さにドキッとさせられる。現時点のマクラーレンにおいて最もパワフルとうたう「765LTスパイダー」は、クルマの常識を超えるくらい速く、刺激的なスーパーカーなのである。
マクラーレンは言わずと知れたF1チームの強豪。プロダクションカー市場に本格参入したのは2011年からと比較的新しいが、フェラーリやランボルギーニと肩を並べる欧州のスーパーカーを代表する存在だ。その最新作こそ765LTスパイダーであり、車名からは実像の一端をひも解くことができる。
765psの最高出力、クーペとスパイダーの生産台数がそれぞれ765台ずつの限定であること。LTというアルファベットは、1990年代のル・マン24時間レースで活躍したGTレーシングカー、マクラーレン「F1 GTRロングテール(Long tail)」に由来している。
車両重量は、F1マシーンと同じカーボンモノコック製のモノセルシャシーを核とすることで1400㎏に満たない。純粋なガソリンエンジンのマクラーレンとして最高レベルといえる765psの最高出力は、0-100km/hの加速を2.7秒でこなし、最高速は330km/hにも達する。
だが、このクルマのオーナーにもたらすベネフィットは、公道ではとても使い切ることのできない超高性能だけにあるのではない。カーボンモノコックのおかげで車体の剛性感を損なうことなくオープンエアドライブが楽しめることや、性能を考えれば良好といえる乗り心地は、スーパーカーの中では出色といえる。
高性能なスポーツカーは、その速さゆえに走ること自体が目的になってしまいがちだが、765LTスパイダーはその轍(てつ)を踏んでいない。助手席にパートナーを乗せ、スイッチひとつで開閉するルーフを開け放ち、ちょっとしたドライブデートや普段使いもカバーできる柔軟性を備えている。もちろん、スロットルペダルは極めて優しく踏み込んであげる必要はあるが……。
マクラーレンの特徴でもある斜め上方向に跳ね上がるディヘドラルドアを開け、ドライバーズシートに滑り込む。レーシングカーのようにカーボン製のシャシーやシートがドライバーを包み込む感覚も、マクラーレンならではのものだ。鉄素材よりもはるかに硬いはずだが、所々に露出したカーボンの地肌に触れると樹脂的な温かみが感じられる。
ギアチェンジはATに任せることもできるので心配する必要はないし、控えめにアクセルペダルを踏むぶんには従順なクルマといえる。
しかし、先述した“普段使いもカバーできる”という一節には、“頂上レベルのスーパーカーの中では”という注釈がいるだろう。V8エンジンのノイズと振動はレーシングカー並みに盛大。タイヤはレーシングタイヤに近いピレリ製を装着しているので、ステアリングの手応えも俊敏といえる。これら強い刺激のとどめとして、冒頭の“常識を超えた加速力”が襲い掛かる。
765LTスパイダーの魅力は、普段使いからサーキット走行までのカバレッジの広さ、純レーシングカーを彷彿とさせる質感の高さと速さ、そして限定生産による希少性にあると言っていいだろう。
だが、次世代のマクラーレンであるV6+ハイブリッドの「アルトゥーラ」が発表され、メーカーが電動化へ舵を切るタイミングが来ていることを考えれば、765LTにもうひとつの大きな価値が浮かび上がってくる。それは、純粋なガソリンエンジン最終期のトップモデルであることだ。いつか、ではなく、今こそが体感すべきひとつの重要なタイミングなのである。
マクラーレン765LTスパイダー 車両本体価格: 49,500,000 円(税込)
- ボディサイズ | 全長 4600 X 全幅 1930 X 全高 1193 mm
- ホイールベース | 2670 mm
- 車両重量 | 1388 Kg
- エンジン | V型8気筒 DOHC ターボ
- 排気量 | 3994 cc
- 変速機 |7速 DSG
- 最高出力 | 765 ps(563 kW)/ 7500 rpm
- 最大トルク | 800 N・m / 5500 rpm
- 最高速度 | 330 Km / h
- 0 - 100 km/h| 2.7 秒
- Text : Takuo Yoshida
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マクラーレン・オートモーティブ
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