フルモデルチェンジをし、新型に移行したBMW「M4クーペコンペティション」に試乗しながら、これはクルマの完成形ではないかと感じた。
身体全体をすっぽりと包み込むようにホールドする、ヘッドレスト一体型のMスポーツシートに腰を下ろす。計器類がドライバーを取り囲むコクピットは、機能的でいかにもBMWらしい。
スターターボタンを押すと、3.0リッターの直列6気筒ツインターボエンジンが、「フォン!」と威勢よく目覚める。エキゾーストノートは穏やかに調整することも可能だから、深夜や早朝のゴルフなど、ご近所に迷惑をかける心配はない。
標準仕様のBMW M4クーペは6速マニュアルトランスミッションと組み合わされる。一方、今回試乗したコンペティション仕様は、トルクコンバータ式の8速オートマチックトランスミッションが標準仕様より30ps上乗せされた最高出力510psの動力をタイヤに伝える。シフトセレクターをDレンジにして、ブレーキペダルをリリースすると、クリープ状態(アクセルペダルを踏むことなく、エンジンがアイドリングの状態で車両が動く現象)で滑らかに走り出した。
「あぁ、いいエンジンだな」としみじみするのは、軽くアクセルペダルを踏み込んで市街地の流れに乗ろうとした瞬間からだ。せいぜい30〜40km/h程度のスピードでも、右足とエンジンが直結しているかのように思い通りに加速する。ただスピードが上がるだけでなく、その過程の排気音の質やレスポンスが素晴らしい。「優れたスポーツカーは30km/hで走っても官能的」という、先輩モータージャーナリストの名言を思い出した。
今回のモデルチェンジにあたってゼロから開発された新しい直列6気筒エンジンは、BMWお得意のエンジン制御技術がさらに洗練されている。具体的には、バルブをコントロールする技術が磨きに磨かれたことで、低回転域からも豊かなトルクを発生し、アクセルを踏んだ瞬間にバチンと加速するレスポンスも獲得している。
このレスポンスのよさは8速ATとの連携が練られていることも大きい。思い通り、気持ちよく加速するこのエンジンは、トランスミッションとの組み合わせも含めて、内燃機関の最高峰だと感じる。
嬉しいのは、タウンスピードで乗り心地がいいことだ。当然、ふわんふわんという快適さではなく、ビシッと引き締まっている。イヤな突き上げがドライバーを襲うことはない。これはボディがしっかりしていることが大きい。走行中に車体が歪んだりねじれたりすることがないから、常にサスペンションが路面に対して理想的な角度を保っていられる。ボディがヤワなクルマだと、サスペンションはエンジニアが思い描いた通りに機能しないのだ。
市街地でも楽しめるクルマではあるけれど、やはり生き生きとするのはワインディングロードだ。エンジン、シャシー、ステアリング、ブレーキの特性を、それぞれ「COMFORT」「SPORT」「SPORT PLUS」に設定できるので、まずは状況に応じた自分好みのセッティングを探すところから始まる。
たとえばエンジンで「SPORT」を選ぶと、高回転をキープするようになり、カミソリのようなレスポンスにシビれることになる。エキゾーストノートも入念にチューニングされており、適度な重さのハンドルの手応えも含めて、五感でドライビングを楽しむことができる。ただし、「SPORT PLUS」のモードを選ぶと、シフトショックの大きさが少し気になるから、ここは好みで味付けを選びたい。
普段、FF(前輪駆動車)に乗り慣れていると気が付かないけれど、やはりFR(後輪駆動車)はハンドルの手応えがいい。エンジンのトルクがハンドル操作に干渉しないから、手応えがすっきりしている。そして手応えのいいハンドルを操作すると、タイトなコーナーでも喜々として曲がろうとする。
ここで改めて強調しておきたいのは、「M4クーペ」にしろ「M3」にしろ、通常モデルのクーペやスポーツセダンをパワーアップしたモデルではないということだ。ツーリングカーレースに出走するレーシングマシンを市街地でも走れるようにチューニングし直したのがM4とM3なのだ。
このクルマは510psあるから、もちろん速い。けれども、ただ速いだけでなく、エンジンもハンドリングもブレーキも、すべてが洗練されている。テクノロジーの進歩によって、レーシングマシンの切れ味の鋭さと、プレミアムカーの繊細な味わいが両立できるようになった。そう体感することができる。 レーシングマシンとプレミアムカーの“いいとこ取り”をしているという意味で、これまで内燃機関とともに進化してきたクルマのひとつの完成形である、と私は感じた。
BMW M4クーペ コンペティション 車両本体価格:13,480,000円(税込)
- ボディサイズ | 全長 4805 X 全幅 1885 X 全高 1395 mm
- ホイールベース | 2855 mm
- エンジン | 直列6気筒 DOHC ガソリン
- 排気量 | 2992 cc
- 最高出力 | 510 ps(375 kW)/ 6250 rpm
- 最大トルク | 650 N・m / 2750 - 5500 rpm
- Text : Takeshi Sato
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