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1970年代後半から1980年代前半、スイスの時計産業は存亡の危機に瀕していた。高精度なクォーツ式時計の登場に加えて、時計業界は構造改革に失敗。老舗、名門として長年業界をリードしてきた時計ブランドの倒産や売却、統合された。だが、そんな状況でも「機械式時計の未来」を信じていた人物がいた。その一人が大手時計ブランドの技術部門にいたゲルト・R・ラングで、1983年、ドイツ・ミュンヘンに機械式時計ブランド「クロノスイス」を創立した。
動く過程がほとんど見えないクォーツ式時計と違い、100個を超える小さな歯車やバネを組み合わせて動かす機械式時計には、数百年に及ぶ先人たちの英知と歴史、精密機械だけが持つ奥深い世界がある。機械式時計のコレクターであり、クロノグラフ研究の第一人者としての著作もあるラングには「機械式時計は廃れるはずがない」という揺るぎない確信があった。
機械式時計への敬意と情熱を込めた仕上げたムーブメントや、伝統的な手法で製作されたギョーシェ(彫刻)加工文字盤など、1990年代後半になると時計愛好家の間で絶大な人気を博し、入手できない存在となった。そんな中でも、特に人気の高いモデルが「レギュレーター」である。
「レギュレーター(regulator)」は機械の動きや状態を調整・制御する装置という意味だが、時計の世界では「標準時計」を意味する。標準時計とは、18世紀半ばに懐中時計を製作する際の精度調整、船や鉄道の運行、ラジオ放送などの時刻の基準として使う高精度な大型の壁掛け時計やクロノメーターを指す。時計製造に使われる標準時計の最大の特徴は、時・分・秒の文字盤と針が独立しており、それぞれの情報がすぐに読み取れるところだ。
ラングは独自にこの「レギュレーター」モジュールを開発し、世界初の自動巻き“レギュレーター”ウォッチを世に送り出した。縦溝付き(コインエッジスタイル)のベゼル、玉ねぎ型のリュウズ、ストラップをラグにネジ止めしたケースは、“クロノスイス スタイル”としてブランドのアイコンになった。現在のブランドオーナー兼CEOのオリバー・エブシュテインは、その資産を受け継ぎ、スイスのルツェルンにある工房で、時計作りの精神を継承したモダンメカニカルな機械式時計を作り続けている。
今回紹介する「フライング レギュレーター ナイト&デイ」は、このレギュレーターモデルの伝統を発展させた最新の限定モデル。アンティークの手動旋盤を使って手作業で彫られるギョーシェ模様の文字盤には12時位置に「時」、6時位置に「秒」を表示する2つのインダイヤル、さらに3時位置にはデイト表示、9時位置にはデイ/ナイト表示が設けられている。
秒を表示するインダイヤルはスケルトン化されていて、文字盤の表側からも機械式ムーブメントの動きが目で楽しめる。3D化されている昼夜表示はスーパールミノバ(蓄光性夜光顔料)を施し、暗くなるとレーザーカットの星々が輝くデザインとなっている。
文字盤カラーは宇宙につながる夜空を彷彿させるメタリックブルーの「ミッドナイト」と、水平線が空と溶け合う気象現象を彷彿させる「ホワイトアウト」の2色。搭載される自動巻きムーブメント、クロノスイス・キャリバーC.296は ETA 2895をベースに自社製モジュールを組み合わせたオリジナル。シースルーのケースバックからは美しい仕上げのムーブメントが楽しめる。
CHRONOSWISS / クロノスイス
フライング レギュレーター ナイト & デイ「ミッドナイト」、「ホワイトアウト」 190.3万円(税込)
- SPEC
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- ケースサイズ:41㎜
- 自動巻き、SSケース、コーデュラ(ナイロン)ストラップ(ミッドナイト) / アリゲーターストラップ(ホワイトアウト)、10気圧防水
お問い合わせ先
- 栄光時計 TEL:03-3837-0783
Text : Yasuhito Shibuya