旅する写心 〜You’d Be So Nice To Come Home To

最初の一歩を踏み出すには・・・
僕にとっての
マスターズへの最初の一歩は
ギャラリーとして入った
1987年だった。

翌88年にPGAツアーの取材を1年通して経験。
89年から正式にPRESSとして許可が下り
それ以来マスターズの取材を
欠かすことなく続けてきた。

日本人は「最初の一歩」が苦手という。
本能的に現状を維持しようとし、
未知の領域に踏み入れることを躊躇する。
私は対照的に、興味があることに
迷いなく飛び込んでいくタイプ。
しかし34年続けるということは
実際は大変なことだった。
一人のカメラマンが同じ会社のバッジを
持ち続けることは無理なこと。
私の場合6社を渡り歩きながら
かろうじて続けてきた。

30年を過ぎた頃から
「最後」という文字がチラつき始めた。
このまま優勝を見ることなく終わるのか。
特に昨年、今年とコロナの影響で
大幅にメディアの数が制限されるなか
取材許可が下りたことで
逆にそれに応えようと奮起した。

オーガスタの18番はきつい上り坂。
4日間歩き続けてきた老カメラマンには
生やさしいものではない。
しかしいつもと違う歓声が背中を押す。
最後の一歩はこれまで見続けてきた
夢が叶う瞬間だ。
ヒデキの顔が夕陽で赤く染まる。
シャッターの音がいつまでも心に響いた。

Augusta National Golf Club
オーガスタナショナルゴルフクラブ

宮本 卓Taku Miyamoto

1957年、和歌山県生まれ。神奈川大学を経てアサヒゴルフ写真部入社。84年に独立し、フリーのゴルフカメラマンになる。87年より海外に活動の拠点を移し、メジャー大会取材だけでも100試合を数える。世界のゴルフ場の撮影にも力を入れており、2002年からPebble Beach Golf Links、2010年よりRiviera Country Club、2013年より我孫子ゴルフ倶楽部でそれぞれライセンス・フォトグラファーを務める。また、写真集に「美しきゴルフコースへの旅」「Dream of Riviera」、作家・伊集院静氏との共著で「夢のゴルフコースへ」シリーズ(小学館文庫)などがある。全米ゴルフ記者協会会員、世界ゴルフ殿堂選考委員。

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