旅する写心 〜Golden Bear

1月21日は
ジャック・ニクラス80歳の誕生日。
言わずと知れたゴルフ界の帝王、
世界最強のプロゴルファーだ。
私がゴルフの写真を撮っていて
一つ誇れることがある。
それは、ジャックの全てのメジャーの
最後のラウンドに立ち会えたことだ。

引退を表明した当時は65歳。
クラブの進化も手伝い
ドライバーは280ヤード以上、
7番アイアンでも150ヤード以上飛んでいた。
それは現役時代と全く変わらないものだった。
何が彼に引退を決意させたのか。
それはパットだった。

4フィートのパットは入っても
15フィートが全く決められなくなった。
理由はわからない。
ただ言えることはメジャーでは戦えないということ。
真に強いチャンピオンは、みんな例外なく
絶対に入れなくてはいけないパットを必ず決めた。
全盛時代の彼がまさにそうだった。

2005年7月15日。
最後の日がやってきた。
「全英オープン」セントアンドリュース18番ホール。
上から8フィートのバーディパット。
思い通りのスライスラインを描き
ボールはカップへと消えた。
全てのプレッシャーから解き放された瞬間だ。
左手を高々と上げて拍手に応えた。
最後のラウンドがセントアンドリュース。
そして、バーディフィニッシュで「72」。
カメラを持つ手が震えていた。
知らずして涙が頬をつたった。
この場所、この瞬間。
ジャックの80歳の誕生日に
もう一度あの記憶を手繰り寄せてみよう。

St Andrews Old Course
スコットランド セントアンドリュース

宮本 卓Taku Miyamoto

1957年、和歌山県生まれ。神奈川大学を経てアサヒゴルフ写真部入社。84年に独立し、フリーのゴルフカメラマンになる。87年より海外に活動の拠点を移し、メジャー大会取材だけでも100試合を数える。世界のゴルフ場の撮影にも力を入れており、2002年からPebble Beach Golf Links、2010年よりRiviera Country Club、2013年より我孫子ゴルフ倶楽部でそれぞれライセンス・フォトグラファーを務める。また、写真集に「美しきゴルフコースへの旅」「Dream of Riviera」、作家・伊集院静氏との共著で「夢のゴルフコースへ」シリーズ(小学館文庫)などがある。全米ゴルフ記者協会会員、世界ゴルフ殿堂選考委員。

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