シャフトが紡ぐ14本のストーリー 「思い通りの一打を重ねる」

f:id:ryotaro_ikeda:20201110155528j:plain

今の時代、最新の製品紹介ならばすぐにでも手に入る。ニューモデルが発表されたその当日に、試打レビューがアップされることも珍しいことではなくなった。情報を得て“このクラブならもっとうまくいきそうだ”とその気になることも十分に可能であるが、それらの情報は「ゴルフの断片」を補うものである。残念ながら、ゴルフとは一本のクラブを打って完結するものではない。一打を重ねて、エピソードを紡いでいく奥行きのあるスポーツ。それがゴルフである。

〔Prologue〕14本をつなぐ、ゴルフを作る。シャフトのストーリー

f:id:ryotaro_ikeda:20201110103904j:plain

「飛距離が出ると評判のドライバーを手に入れた!最新のやさしいアイアンに買い換えた!プロと同じパターにしてみた!でも、スコアは相変わらず。またティショットがいい日はアイアンがダメ、アイアンがいいとドライバーが……となってしまいがちなのも、ゴルフの難しさだと思います。我々は“シャフト”のチカラでこうしたちぐはぐなゴルフの状態を改善できるのではないか、そう確信しています」

そう語るのは、軽量スチールシャフトのパイオニア、N.S.プロ950GHや世界ツアーで抜群の信頼を獲得しているMODUS³シリーズでおなじみのシャフトブランド、日本シャフトで商品企画を担当する栗原一郎さんだ。その真意を詳しく聞いてみた。

  • f:id:ryotaro_ikeda:20201110111147j:plain

  • f:id:ryotaro_ikeda:20201110105810j:plain

「シャフトというのはクラブヘッドとプレーヤーをつなぎ、スムーズなスイングに導くことで最大のパフォーマンスを引き出していくトランスミッションのようなものです。合わないシャフトでは、いくらよいヘッドでも思い通りの弾道を打つことはできない。ゴルファーならばそのことはよくご存じだと思います。しかし、シャフトにはもう一つ、とても大きな役割があるのです。それが14本のクラブ同士を同調させること。つまり、ラウンド中に起こりがちな“番手ごとの好不調の波”を穏やかにするチカラがあるのです」(栗原さん)

最近はクラブメーカーによるフィッティングが盛んで、クラブ購入の際に複数のシャフトを試し、好結果が得られるシャフトを選んだ経験のあるゴルファーは多いだろう。この場合、ヘッドに対してのゴルファーのマッチングはとれていると言える。では、その新規購入したクラブと他の愛用クラブはマッチしているだろうか? 残念ながらその可能性は低い。新たなクラブが加わることでキャディバッグ内には不協和音が起こる。こっちに合わせれば、あっちが合わなくなる。それがゴルフの難しさの主要因となっているわけである。

では、いかにすればキャディバッグ内の不協和音を抑え、番手ごとの好不調をなくすことができるのか?

f:id:ryotaro_ikeda:20201110154752j:plain

「セットの中で最も幅をきかせているアイアンのシャフトを決めることが、つながりを持ったクラブセッティングのスタートになると当社では考えています。しっかりとアイアンシャフトをフィッティングし、たとえばMODUS³ TOUR105が合うとなれば、そのシャフトと同じようなフィーリングで振れるウッド用、あるいはウェッジやパター用シャフトを組み合わせていけばよいという考え方です。実際、当社のウッド用カーボンシャフト『Regioフォーミュラ』はそうした観点で開発しています。MODUS³ TOUR 105が合っているゴルファーには、『RegioフォーミュラMB』を推奨。MODUS³ TOUR 120なら『フォーミュラB』、MODUS³ TOUR 120なら『フォーミュラM』と、アイアンを軸にウッド用カーボンを開発しているのです」(栗原さん)

アイアンシャフトのシェアと信頼性、そして多彩なラインアップを誇る日本シャフトにしかできない、アイアンを基軸としたクラブセッティング術である。改めて考えてみれば、この考え方は非常に理にかなったものだ。フルショットするクラブの中で、ラウンド中に最も使用頻度が高いのがアイアンである。そのよく使うアイテムにスポット的に使うアイテムを合わせていく。それなら全体がうまくまとまっていくような気がしないだろうか?

f:id:ryotaro_ikeda:20201110154748j:plain

「ドライバーで今日一ショットが出れば満足する日もありますが、思い通りの一打がセカンドショットでも出たら、バーディチャンスに結びつく。そうなればもっとゴルフはどんどん楽しくなりますよね。究極的にはナイスショットをつなげるお手伝いを、シャフトを通じてしたいと思っているのです」(栗原さん)

14本のクラブを駆使して、一打を積み上げていくのがゴルフの本質。飛ばす、狙う、寄せる、入れる、そしてまた飛ばす。同じことの繰り返しのようではあるが、使うクラブとその順番は常に変化する。その中で理想の一打を重ねていくには、やはり“つながり”を考えることが必要。その鍵を握るのが、アイアンシャフトである。

〔Inovations〕テクノロジーが生み出す、つながりの正体

f:id:ryotaro_ikeda:20201110154739j:plain

日本シャフトがMODUS³シャフトを開発した背景には、“細かなゴルファーニーズに応える”という目的がある。世界ツアーでは長く定番と呼ばれるアイアン用スチールが高いシェアを獲得してきたが、当然のごとく中にはこの定番に不満を持つプレーヤーも存在していた。日本シャフトは競合ブランドとして王者に真っ向勝負を挑むのではなく、王者がカバーしていない領域に、これまでになかったアイアンシャフトを供給することを始めたのである。実際ヒアリングを始めると、そこには多種多様のプレーヤーニーズがあった。

f:id:ryotaro_ikeda:20201110112745j:plain

日本シャフト独自の熱処理技術、延伸技術、素材開発によって単一素材でありながら、極めて細かな剛性設計で生み出されたアイアン用シャフトのラインアップ

「シャフトの特性を変えるには、手元から中間、そして先端をどのような剛性にしていくのかが決め手になります。一般的には剛性分布と呼ばれるものです。MODUS³スチールの第一弾は『TOUR 120』でしたが、これは定番スチールよりも先端剛性を高め、逆に中間から手元にかけては軟らかめに設計したもの。これによってミドルからロングアイアンでのスピンのかかり過ぎを抑え、コントロール性と飛距離の安定を実現しました。もちろん、ツアーや市場のニーズを『TOUR 120』だけでカバーすることは不可能です。その後、ラインアップされた『TOUR 125』、『TOUR130』、『TOUR105』、そして限定2000セットで今年11月に発売する『TOUR115』も、細かなプレーヤーニーズを満たすために剛性分布や素材を変えて生み出した“選択肢”なのです」(栗原さん)

理想のアイアンシャフトの先には、14本がつながり合うクラブセットの理想が待っている。各番手を結びつけるポイントは、同じ“剛性分布”で設計されたシャフトを組み合わせることである。栗原さんが先に挙げてくれた、アイアン用スチールMODUS³とウッド用カーボンRegioフォーミュラの推奨例も、基本的にはそれぞれが同じ方向性の剛性分布で作られていることを意味している。

  • f:id:ryotaro_ikeda:20201110113500j:plain

  • f:id:ryotaro_ikeda:20201110113503j:plain

左 )自分に合ったMODUS³スチールを選び、剛性設計がマッチするRegioフォーミュラカーボンを選択するだけで、基本的にはスムーズなつながりをもったクラブセッティングとなる
右 )カーボンシャフトの振りやすさとアイアン用スチールの持つ打感(飛び出しスピード)と方向安定性を加味したユーティリティ専用のMODUS³ HYBRID

「剛性分布のマッチングによって、ウッドとアイアンのクラブ挙動はかなり統一されたものになります。これに加えて、各クラブカテゴリーでの感覚的な振り心地の違いやフィーリングを馴染ませる設計を施します。例えば、アイアンと直接つながるハイブリッド(ユーティリティ)用シャフトは、アイアンとうまく馴染むように。フェアウェイウッド用はドライバーに振り心地に近づけるようにすることで、セッティング全体の調和がとれるようになってきます。基本設計を完全に同じにすることが目的なのではなく、全体の振り心地やフィーリングを心地よい方向に合わせていく。そのために細かに設定を変えることが必要なのです」(栗原さん)

振り心地とは、スイングテンポ。フィーリングとは打感や飛び出すスピード、弾道高さのイメージということになるだろうか。

  • f:id:ryotaro_ikeda:20201110114223j:plain

  • f:id:ryotaro_ikeda:20201110114220j:plain

左 )ウェッジシャフトは先端剛性を抑えることでボールのフェース乗りがよく、低めでコントロールしたアプローチが打ちやすい設計。球離れがゆったりするため、ふわりとしたショットイメージも出しやすい
右 )様々なストロークパターンで違いを出すために、あえてクセなく仕上げられたN.S.PROパターシャフト。シャフト径、重量のバリエーションがある

「ボールが飛び出していくスピード、インパクトで感じる弾き感というものも、シャフトの細かい剛性設計でコントロールすることが可能です。先ほどフェアウェイウッド用はドライバーに近づけると言いましたが、これは先端強度を高めることで当たり負けを発生させず、ボールを爽快に弾き飛ばすようなフィールを出すということです。逆にウェッジ用のMODUS³では、各アイアンよりも先端剛性を落とすことでよりゆっくりとボールが飛び出すイメージを出せるようにしています。初速感(弾き感)を14本の中でうまくフローさせていく。これもシャフトでできることの、大きな役割の一つです」(栗原さん)

ゴルフは広大なフィールドを舞台に一打を放ち、その一打を重ねることで作り上げるプレーヤーが主役の物語だ。シャフトには14本をつなぐチカラがある。最高の一打をつなげていくチカラがある。使い手である我々も“理想的なセットのつながり”をもっと意識すべきだろう。

f:id:ryotaro_ikeda:20201111115038j:plain

SPECIAL THANKS

日本シャフト株式会社 栗原一郎さん

スチールとカーボンの両方を製造する総合シャフトメーカーである日本シャフトに勤務。
企画開発とマーケティングを長年担当し、フィッティグやモデル選びにも詳しいシャフトの専門家

現在の使用シャフトは「N.S.PRO Regio Formula B+ TYPE65 X」
STAFFスタッフ
Photo
Kenji Okazaki(Little Journey)
Text
Yoshiaki Takanashi(Position ZERO)

お問い合わせ先

閉じる