松山がマスターズで初優勝した時、
表彰式に見慣れぬトロフィがひとつ置かれていた。
オーガスタナショナルGCのチェアマン、フレッド・リドリーのほか
なぜか前チェアマンのビリー・ペインも出席していた。
マスターズの表彰式を長年見てきたものにとっては
この小さな変化は不思議な光景だった。
表彰式が進み、グリーンジャケット授与が終わると
ビリーはそのトロフィを松山に渡し、
マイクを持つと感慨深げに話し始めた。
「ちょうど10年前(当時)、ヒデキは私が始めたアジアパシフィックアマチュアゴルフ選手権に勝ち、
マスターズの出場権を得てローアマを獲得した。
そして今日、その中から初の優勝者が誕生した。
このトロフィはその時のものだ。
アジアの若者にもチャンスを、という思いで始めた大会がこのような結果を生み、とてもうれしい」
数少ない出場枠に
アジアのアマチュアにも門戸を開くという発想は
きっと委員会全員が賛成したものではなかったかもしれない。
だがビリーは押し通したのだ。
そしてその大会が
来年日本に戻ってくることが発表された。
開催コースは松山が初監修し、
リース・ジョーンズが設計した
太平洋クラブ御殿場コース。
壮大なストーリーは第二章へと向かい始めた。
宮本 卓Taku Miyamoto
1957年、和歌山県生まれ。神奈川大学を経てアサヒゴルフ写真部入社。84年に独立し、フリーのゴルフカメラマンになる。87年より海外に活動の拠点を移し、メジャー大会取材だけでも100試合を数える。世界のゴルフ場の撮影にも力を入れており、2002年からPebble Beach Golf Links、2010年よりRiviera Country Clubほか、国内数々のオフィシャルフォトグラファーを務める。また、写真集に「美しきゴルフコースへの旅」「Dream of Riviera」、作家・伊集院静氏との共著で「夢のゴルフコースへ」シリーズ(小学館文庫)などがある。全米ゴルフ記者協会会員、世界ゴルフ殿堂選考委員。