自分のためだけにあつらえた最上級の「オートクチュール」は、クルマでも可能なのだろうか? なかなか難しい、と答えざるを得ないのが現実だ。それでも…“超”がつくほどの高級ブランドであれば、違う世界を見られるのかもしれない。
<関連記事>12気筒の伝説が再び蘇る フェラーリ「12チリンドリ」登場
真っ黒なフロントグリルに浮かぶ2つの丸い目玉。リアエンドには、ボディと一体型の大型スポイラーが立ち上がる。英国のアストンマーティンが7月のヒルクライムイベントで披露した風変わりな一台は「ヴァリアント」と名付けられている。強烈な印象を残すこのモデルは、世界で38台だけ生産販売される予定だ。そのうちの一台は、すでにF1ワールドチャンピオンのフェルナンド・アロンソの元に納車されることが決まっている。
2ドア2シーター。最高出力745psの5.2リッター、V12ツインターボエンジンは、ベースとなった「ヴァラー」よりも30psほど出力が引き上げられている。組み合わせるトランスミッションは、走り好きのアロンソの注文により6速MT(マニュアルトランスミッション)のみとなる。
F1ドライバーが注文したパワフルなエンジンに適応するボディに求められるのは、見た目よりダウンフォース(地面に押し付ける力)なのかもしれない。つい巨大なリアウイングに目が行ってしまうが、フロントのエアダムからサイドシル、ホイールカバーに至るまで、市販車では例がないほど緻密な形状のエアロパーツがカーボンファイバーにより形成されている。
室内も、無駄なものをそぎ落としたレーシングライクな意匠になっている。軽量なカーボンファイバー製のバケットシートに加え、シフトレバーはカバーが排されたスケルトンタイプで軽量化に貢献している。
アストンマーティンというブランド名は、エンジニアのライオネル・マーティンが、貴族階級のパトロンのために仕立てたワンオフのレーシングカーで「アストン・クリントン・ヒルクライム」に勝利したことに由来している。だとすれば、トップレーサーのわがままを具現化したヴァリアントもまた、最もアストンマーティンらしい一台と言える。
アロンソへの納車は決まっている。この究極のオートクチュールを手にすることができるのはあと37人。いったい誰なのだろうか?
アストンマーティン ヴァリアント
- エンジン | V型12気筒 ツインターボ
- 最高出力 | 745 ps(548 kW)
- 最大トルク | 735 N・m
- 変速機 | 6速 MT
お問い合わせ先
Text : Takuo Yoshida