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不揃いのブドウがつくる雫 ラウンドの余韻は名門ワイナリーで選ぶ特別な1本と…

ゴルフ場が数多くあるエリアに、知る人ぞ知るワインの里がある。都心から車を走らせること1時間30分、山道の向こうに思わず息をのむような急斜面のブドウ畑が現れる。栃木県足利市にある「ココ・ファーム・ワイナリー」。ボトルはこれまで日本航空の国際線ファーストクラスや、2000年の九州沖縄サミットで乾杯酒に採用された実績もある。夏は暑く、冬は寒く、そしてゴルファーにフレンドリーなこの地で、ワイン造りに心血を注いできた代表の池上峻さんに話を聞いた。

|ワイナリーは「自立」のためのブドウ栽培から始まった

急斜面を開墾して作られたブドウ畑©COCOFARM&WINERY

畑の平均斜度は38度。スキーのジャンプ台が36度だと知れば、どれくらいの急傾斜か想像できるだろう。畑は南西向き、砂れき混じりのローム層は、頁岩(けつがん)を主体としたジュラ紀の地質で、水はけがよく、風通しの良い場所でブドウの根が自然と深く伸びていく。マスカット・ベーリーA、リースリング・リオンといった日本固有の品種や、プティ・マンサン、ノートンなど、ここ足利の風土にあった品種を栽培している。

ココ・ファームの原点は、ワインづくりではない。いまから60年以上前、創業者の川田昇さん(池上さんの祖父)は、中学校教師として“学校の勉強が得意ではない子どもたち”の将来を案じていた。「知的障がい」という言葉や制度が整っていなかった時代、彼らは往々にして社会の周縁に置かれ、「人知れず守られる存在」として捉えられることが多かった。

そこで川田さんが考えたのは、彼らの保護ではなく、自立だった。体を動かし、汗をかき、働いた対価として生きていく力を身につける。そのための場として、私財で山を購入し、子どもたちを連れて斜面を拓いていった。人の手がほとんど入っていなかった山は、決してやさしい環境ではない。だからこそ、ここには役割があり、成果があり、誇りが生まれると考えたのだ。

ココ・ファーム・ワイナリー代表の池上峻さん

木を切り倒す轟音に驚いた子どもたちは、やがて目を輝かせる。見よう見まねで道具を扱い、少しずつ技術を覚えていく。できなかったことが、できるようになる。その積み重ねが成功体験となり、表情を変えていった。様子は親たちの耳にも届き、「あの山に行くと、うちの子が変わる」という評判が自然と広がっていったそうだ。

畑として使えるようになるまでには3年以上の歳月を要した。ようやく植えられたブドウはそのまま食用として市場で販売した。自分たちで育て、売り、生活の糧にする。その循環こそが当初の目的だった。

しかし高度経済成長とともに、市場が求める基準は変わっていく。味よりも、形の整った“贈答向け”のブドウが重宝され、不揃いな実の評価は下がっていった。行き場を失いかけたブドウを前に、川田さんが導き出した答えがワインだった。「おいしいブドウなら、おいしいワインになる」。見た目ではなく、本質を見る。その考え方は、ブドウにも、人にも、同じように向けられていた。

|「ブドウのなりたいワインになる」 野生酵母へのこだわり

岩窟の貯蔵庫

醸造においても、ココ・ファームの姿勢は一貫している。多くのワイナリーが、発酵の安定性や再現性を重視して培養酵母を用いるなか、ここではあえて野生酵母による発酵にこだわる。単一の菌株で管理できる前者に比べ、後者は発酵の立ち上がりも速度も読みづらく、温度管理やタイミングを誤れば、味わいにブレや欠陥が生じる。

それでも彼らが野生酵母に向き合う理由は明確だ。必要以上に手を加えない、ブドウそのものの個性や素材を最大限に引き出すワイン造りの、独自の哲学がある。ブドウのなりたいワインになるーー。その姿勢が結果的に、ワインに奥行きと個性を生んでいる。

ワインを発酵・熟成させるタンクが並ぶ

タンクの中では、性格の異なる酵母たちが共存し、ときに競り合い、ときに補い合いながら発酵が進んでいくという。単独では尖りすぎる要素も、時間をかけて角が取れ、まろやかになる。「そのプロセスは、ココ・ファームで働く園生たちを見ているようです」と、代表の池上さんは目を細める。個々に違いがあっても、それぞれの役割が噛み合ったとき、はじめてひとつの“モノ”が生まれる。現在も障がいを持つ仲間と働く理由は、そんなところにもあるという。

|ゴルフの余韻とともに、ワインを手土産に

ワイナリーに併設されたショップ©COCOFARM&WINERY

足利市周辺には約10ものゴルフ場が点在する。ラウンド後、少しだけ足を延ばして立ち寄る場所として、ココ・ファーム・ワイナリーは実に心地いい。ワイナリー見学、ワインやノンアルコールなどのテイスティングが楽しめるだけではない。併設するカフェやショップでは、果実味あふれるジュースやジャム、ワインに合うチーズなども販売している。

家族やパートナー、ゴルフ仲間への土産にも最適。畑を見ながら、ワインを選び、その背景を知る。自宅でグラスを傾けたとき、深い味わいとともに、今日のプレーや仲間との会話が自然とよみがえってくるだろう。

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取材協力

ココ・ファーム・ワイナリー

〒326-0061 栃木県足利市田島町611 TEL:0284-42-1194

https://cocowine.com/

株式会社トランジットグループ

https://www.transit-web.com/

Edit&Text : Junko Itoi

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