友人からでも、家族からでも、書評でも、課題図書でもない「オススメの本」を読んだことはありますか? 「文喫 六本木」副店長の濱中諒太朗さんにBRUDER読者をイメージした一冊を選んでもらいました。
「真夏の死」/三島由紀夫
今年は三島由紀夫の生誕100年になります。死と美、肉体と精神、そして伝統と近代。鋭利な言葉で数々のテーマを突き詰めた彼の作品群は、今なお読み継がれ、再解釈が繰り返されています。三島由紀夫をこれから読む人に勧めたい一冊が、三島由紀夫の自選短編集『真夏の死』です。
表題作『真夏の死』では、死が突如として日常に滑り込んでくる感覚が、美しくも不穏な筆致で描かれます。死が起点となり引き起こされる感情の微細な変化の数々が、読み終えたあとで胸に余韻を残す短編です。
三島由紀夫というと、その生き様を含めて力強い印象を受けますが、本短編集ではむしろ“静かな怖さ”や“日常に潜む断絶”といった繊細さを感じます。事件が起きるわけでもないのに、ページを閉じたあとに心がざらりとする。そんな感覚こそ、大人の読書の醍醐味かもしれません。
美や死、感情の機微といった三島由紀夫の主題が、長編とはまた違った形で、むしろ生々しく息づいています。100年という節目の今こそ、三島由紀夫の“静かな顔”と向き合ってみる絶好の機会です。
「真夏の死」三島由紀夫(新潮文庫)/¥825(税込)
<関連記事>本当にあった四大証券会社の廃業 経済の勉強を小説で
- COOPERATION
-
-
文喫 六本木 副店長/ブックディレクター 濱中諒太朗
2020年日本出版販売入社。企業内ライブラリーや商業施設のブックディレクションを手掛け、2023年より文喫 副店長として企画選書や展示など、本のある空間プロデュースを行う。好きなお菓子はギンビスのアスパラガス。
-
文喫 六本木
文化を喫する、入場料のある本屋。人文科学や自然科学からデザイン・アートまで約3万冊の書籍を販売している。閲覧室や研究室、喫茶室を併設し、企画展も定期的に開催。普段あまり出会うことのない新たな興味の入り口となっている。
住所:〒106-0032 東京都港区六本木6-1-20 六本木電気ビル1F
営業時間:9:00~20:00(L.O. 19:30)/不定休
https://bunkitsu.jp/
Edit : Hiroto Goda