大人になった今だからこそ 心に響くファンタジー小説

友人からでも、家族からでも、書評でも、課題図書でもない「オススメの本」を読んだことはありますか? 現実と少し距離を置く“小説の世界”への入り口は、時に不意の方が新鮮で心踊りそう。東京・六本木の本屋「文喫 六本木」のブックディレクター・中澤佑さんにBRUDER読者をイメージした一冊を選んでもらいました。

「肩胛骨は翼のなごり」/デイヴィッド・ア-モンド

ファンタジーというとやはり児童向けとされる作品が多く、大人になると手に取る機会は減るものです。でも実は、大人になったからこそ心に響くファンタジー小説というものがあり、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』、アーシュラ・K・ル・グウィンの『ゲド戦記』などは、大人の鑑賞にふさわしい強度を持ち、ほとんど混じり気のない純粋な世界観で癒しを与えてくれます。今回ご紹介するのは、そんなファンタジー小説の中でも異色の一冊。

主人公である少年が、新しい家に引っ越してくるところから物語は始まります。隣には、今にも倒れてしまいそうな古びたガレージがあり、そこで「死人」のような不思議な男と出会います。青白い顔でほとんど動かず、弱っているような身振りでアスピリンや残飯を食べる妙な男に、少年はなぜか魅かれ、言われるままに食事や薬を届けて彼の世話をするようになります。

男との交流を通して、少年特有の大人と子どものはざまで揺れる心の機微を描いたストーリー。その年代にしかない脆くはかない大切な感情が繊細に表現されていて、大人になった今だからこそ心に刺さります。子どものころの感性を取り戻させてくれるようなみずみずしさに満ちた作品です。

「肩胛骨は翼のなごり」/デイヴィッド・ア-モンド(東京創元社)/¥770(税込)

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COOPERATION

文喫 六本木 副店長/ブックディレクター 中澤 佑

2017年日本出版販売入社。企業内ライブラリーや商業施設のブックディレクションを手掛け、2023年より文喫 副店長として企画選書や展示など、本のある空間プロデュースを行う。

Edit : Junko Itoi

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