身近な生活の中にある極上のエンターテイメントを堪能する

友人からでも、家族からでも、書評でも、課題図書でもない「オススメの本」を読んだことはありますか? 現実と少し距離を置く“小説の世界”への入り口は、時に不意の方が新鮮で心踊りそう。東京・六本木の本屋「文喫 六本木」のブックディレクター・中澤佑さんにBRUDER読者をイメージした一冊を選んでもらいました。

「ラストワンマイル」/楡周平

日常をふと忘れさせてくれるようなワクワクするエンターテイメント小説は世の中にたくさんありますが、ごく身近なものが題材になっている作品も実は少なくありません。

本作は物流業界という、日常的に私たちと関わりがありながら、内情をあまり知らない世界が舞台です。「運送会社大手vs巨大ネット通販」という構図で、食うか食われるかのビジネス的な攻防が描かれており、こんなにも手に汗握るストーリーになるのかと、ぐんぐんと作品に引き込まれます。

主人公たちの下請け運送会社が、発注業者から運送費を値切りに値切られ存続の危機というところまで追い込まれながら、一発逆転のアイデアに懸けて奮闘していく姿は、新年最初に読むにふさわしい爽快感があります。

――安定は情熱を殺し、緊張、苦悩こそが情熱を産む――

――本文より

今年の抱負になりそうな至言がちりばめられているという点も、推す理由の一つです。働く男たちの熱い思いは胸に迫るものがあります。お正月休みだからこそ、きっとフル稼働だったかもしれない物流業界の知られざる側面を、ハラハラドキドキ楽しみながら堪能してみてはいかがでしょうか?

「ラストワンマイル」楡周平(新潮社)/¥825(税込)

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COOPERATION

文喫 六本木 副店長/ブックディレクター 中澤 佑

2017年日本出版販売入社。企業内ライブラリーや商業施設のブックディレクションを手掛け、2023年より文喫 副店長として企画選書や展示など、本のある空間プロデュースを行う。

Edit : Junko Itoi

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