絶望からの脱出「希望の国のエクソダス」に見る日本の未来

友人からでも、家族からでも、書評でも、課題図書でもない「オススメの本」を読んだことはありますか? 現実と少し距離を置く“小説の世界”への入り口は、時に不意の方が新鮮で心踊りそう。東京・六本木の本屋「文喫 六本木」のブックディレクター・及川貴子さんにBRUDER読者をイメージした一冊を選んでもらいました。

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「希望の国のエクソダス」/村上龍

統一地方選挙が終了しました。私たちの生活と未来を考える上で欠かせないもののひとつに「経済」があります。今回は、とびきり面白いうえに、経済と社会について考えさせてくれる小説をご紹介します。

――この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない――

――本文より

経済の大停滞が続く日本で、80万人の中学生が学校に行くのをやめた。自分たちでネットビジネスを始め、政財界に衝撃を与える一大勢力となっていく彼らの様が、フリーの取材記者である主人公によって描き出されています。

1998年から2000年にかけて連載された物語ですが、この物語からエクソダス(脱出)が起こらなかった世界が、今の日本なのではないかと感じられるほどです。90年代から続く閉塞感、格差の拡大と一体感の喪失、気晴らしの批評しか行わないメディア、危機感のない人々……。日本の未来に希望を持っている人が、一体どれくらいいるのでしょうか。読者は、そんな既存の社会から脱出しようとする中学生たちに、共感あるいは反感を覚えるかもしれません。しかしその感情を掘り下げると、今の自分の立ち位置とやるべきことが確認できそうです。希望をもって生きるために、読んでおきたい一冊です。

「希望の国のエクソダス」村上龍(文藝春秋)/¥792(税込)

COOPERATION

文喫 六本木 副店長/ブックディレクター 及川貴子

2018年日本出版販売入社。2022年4月より文喫 六本木副店長兼ブックディレクターとして、企画選書や展示イベント企画、本のある空間のプロデュースなどを行う。

Edit : Junko Itoi

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