寝苦しい夜は背筋が凍る新感覚ミステリー作品で涼をとる

友人からでも、家族からでも、書評でも、課題図書でもない「オススメの本」を読んだことはありますか? 現実と少し距離を置く“小説の世界”への入り口は、時に不意の方が新鮮で心踊りそう。東京・六本木の本屋「文喫 六本木」のブックディレクター・中澤佑さんにBRUDER読者をイメージした一冊を選んでもらいました。

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「姑獲鳥の夏」/京極夏彦

寝苦しい夜のお供として紹介するのは、ホラーやミステリーの垣根を越えた新感覚の恐怖読み物『姑獲鳥の夏』です。

主人公の京極堂は古本屋を営む陰陽師。常識では理解できない様々な怪異や呪いを祓(はら)う「憑物(つきもの)落とし」をクライマックスに据えた本書は、妖怪や幽霊の類が出てくるような、いわゆる恐怖小説ではありません。むしろ、人間がなぜ存在しないはずの妖怪や幽霊を”見て”しまうのか、古今東西の文献や知識、言葉を駆使してその正体を暴き、見えてしまう人の意識(脳や心)を変化させるのが憑物落としの効果として描かれます。それは思考を組み換え、”別の視点”を提示することにほかならず、超常現象に「論理」で対抗していく図式がとてもユニークです。そして、本がその知識や言葉の根拠として、とても有効に使われている点も物語の面白さを引き立てています。

――この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君――

――本文より

主人公が語るこの名台詞。この世に不思議なことがないのなら、人間が感じる恐怖とは一体何なのか?自分自身しか知覚しえない人間という存在そのものの儚さをも描く、ホラーやミステリーに飽きてしまった人にこそ読んでほしい1冊です。

「姑獲鳥の夏」京極夏彦(講談社)/¥1,012(税込)

COOPERATION

文喫 六本木 副店長/ブックディレクター 中澤 佑

2017年日本出版販売入社。企業内ライブラリーや商業施設のブックディレクションを手掛け、2023年より文喫 副店長として企画選書や展示など、本のある空間プロデュースを行う。

Edit : Junko Itoi

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