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人生で一度は読んでおきたい日本の近代文学

友人からでも、家族からでも、書評でも、課題図書でもない「オススメの本」を読んだことはありますか? 現実と少し距離を置く“小説の世界”への入り口は、時に不意の方が新鮮で心踊りそう。東京・六本木の本屋「文喫 六本木」のブックディレクター・中澤佑さんにBRUDER読者をイメージした一冊を選んでもらいました。

「高野聖」/泉鏡花

日本近代文学とは明治以降、西洋文化が流れ込み「言文一致」運動などによって日本の文学が形づくられた時代から、戦前、戦後の昭和までの文学を指します。学校の授業などで読む機会も多く、馴染みがある作品も多いことでしょう。今回紹介するのは、そんな近代文学の中でもひときわ異彩を放ち、今もファンの多い泉鏡花の代表作『高野聖』です。

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物語は、主人公が汽車で乗り合わせた僧侶から、ある話を聞くところから始まります。それは、僧侶が飛騨地方の山深い土地で体験した不思議な怪奇譚。男を惑わし、獣の姿に変えてしまう物の怪(もののけ)のような女にまつわる話を、生々しくもユーモラスな登場人物、体言止めを多用したリズミカルな文体、語りの中に語りがある重層的な構造で、幻想的かつ魅惑的に描き出しています。

明治期の作品なので、言葉使いなどとっつきにくいところもありますが、読み進めるうちに、文章のリズムが心地よくなってくるのが不思議です。美しくも独特な言葉から、時代の風情や情緒を感じることができるのも、いま近代文学を読むことで得られるひとつの効能ではないでしょうか。一生に一度はじっくりと読んでおきたい一冊です。

「歌行燈・高野聖」泉鏡花(新潮社)/¥473(税込)

COOPERATION

文喫 六本木 副店長/ブックディレクター 中澤 佑

2017年日本出版販売入社。企業内ライブラリーや商業施設のブックディレクションを手掛け、2023年より文喫 副店長として企画選書や展示など、本のある空間プロデュースを行う。

Edit : Junko Itoi

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