あの「スタンスミス」がゴルフシューズになった理由

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「世界で最も売れているスニーカー」が今年4月、ついにゴルフシューズとなって登場し、あっという間に完売して話題になった。誰もが知るアディダス社の『スタンスミス』。1970年代の登場以来、世界中で愛され続け、かつてギネスブックに「最も売れた―」と認定された名作スニーカーだ。『スタンスミス ゴルフ』はどのように生まれたのか? オリジナルの魅力を紐解きながらこだわりに迫った。(取材・文:林洋平=BRUDER編集)

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スタンスミスをゴルフシューズに。アディダスジャパン社でゴルフシューズを担当する森悠馬氏はかねて構想を持っていた。過去に、白を基調とした“よく似たカラーバリエーション”のゴルフシューズを何度も発売しており、いずれも売れ行きは好調だった。本家スタンスミスのゴルフシューズだったらどれだけ売れるだろう?

「いずれの商品も色味が似ていました。もちろんスタンスミスのロゴはついていないし、連想させるものもない。ただメンズ、ウィメンズともに好評でした。限定モデルでもいいので(ゴルフシューズとして)出せないか?本社のチームにはずっと打診をしていたんです」

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スタン・スミス氏

事態が動いたのは2020年のこと。サスティナビリティに配慮した商品開発に思い切って舵を切ったアディダス社は、最新シューズだけでなく、同社きってのロングセラー商品スタンスミスも天然皮革からリサイクル素材に切り替えると発表したのだ。ブランドのモデルになっている元テニス選手のスタン・スミス氏(74/米国)もこの価値観に共感。新たなテーマを背負ってゴルフシューズへの展開が決まったという。

「ちょうど良いタイミングでした。スタンスミスというゴルフシューズをそのまま出しても話題は長く続かなかったかもしれない。私たちはこのアイコンを使ってどんなメッセージを出せるのか? そこを考えていました」

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ゴルフシューズへの応用をどうするか? いまでこそ街履きのスニーカーとして認知されているスタンスミスだが、もともとはトップ選手が愛用したテニスシューズ。ヒール側の履き口にあるおなじみのグリーン部分は、反復運動の多いテニス選手のアキレス腱を守る機能として設計されているし、ブランドを象徴する三本ラインが、同モデルで3列の穴によって表現されているのも通気性を担保するためだ。

いくらシンプル・イズ・ベストを象徴するようなデザインが注目されて人気が継続しているのだとしても、スタンスミスの名を継承する限り、この開発姿勢は引き継がれていく。そもそもアディダスは1948年の設立以来、「選手目線で能力を最大限引き出すモノづくり」に重きを置くスポーツブランドなのだ。

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「うっすら緑が見える色味もポイントですが、(アディダスのブランドの)製品開発スタンスがスポーツ以外にも訴求して人気になっていったのではないか。靴としての機能がしっかりしているのでファッションでも定番・王道というイメージになり、さらに人気が高まったのだと思います」と森氏はスタンスミス人気を考察している。

スタンスミスゴルフの開発にあたっては、左右の体重移動が多い競技ということもあって、反復運動に強いテニスシューズとしての構造が生きたという。「テニスほど激しい動きはないですが、少ないエネルギーで長距離を歩けるように」と専用に開発したラバー(靴底)によりスイング時のグリップ力が高く、長時間歩いても疲れにくい工夫がなされた。

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今年4月に発売された緑色を基調としたゴルフシューズの一作目は限定品として1時間で売り切れ。5月発売の白ベースに緑を交えるお馴染みの色味だった二作目も限定品として数分で完売した。「スタンスミスはカジュアルシューズとして受け入れられました。しかし私たちのなかでは変わらずパフォーマンスシューズでもあるという位置づけです」。名作のデザインをしっかり引き継ぎながらゴルフシューズへ変貌を遂げた。

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