世界を映す鏡 ジョン・ル・カレのスパイ小説を読む

友人からでも、家族からでも、書評でも、課題図書でもない「オススメの本」を読んだことはありますか? 現実と少し距離を置く“小説の世界”への入り口は、時に不意の方が新鮮で心踊りそう。東京・六本木の本屋「文喫 六本木」のブックディレクター・中澤佑さんにBRUDER読者をイメージした一冊を選んでもらいました。

「スパイはいまも謀略の地に」/ジョン・ル・カレ

スパイを題材とした作品を想像するなら、『007』や『ミッションインポッシブル』などの映画が有名です。でも実は、漫画や小説にも魅力的な作品が数多くあるのはご存知でしょうか。世界の危機を救うスパイは、本来その活動を誰にも知られてはならないという相当に地味で日の当たらない職業です。スパイと聞いて誰もがイメージする、あの華麗な活躍ぶりはフィクションの中だけ、と容易に想像できます。

今回、ご紹介する本作の著者ジョン・ル・カレ(1931~2020)は、英国の諜報機関MI6での勤務経験があるスパイ小説の大家。ヒロイックだったスパイ像を、世界の情勢に翻弄される一人の人間として描き出し、リアルなサスペンス描写を得意とする世界中にファンの多い作家です。

中でも本作は、2019年に発表された比較的新しい作品。タイトルからも読み取れるように、東西冷戦が遠い過去の現代で、役目を終えつつある「スパイ」の郷愁を感じる名作です。特筆すべきは国家間の謀略がストーリー展開を左右する、このジャンルならではのリアルなストーリーテリング。今まさに進行しつつある「世界情勢」とのリンクに、世界への興味が深まる大人の優良図書です。

「スパイはいまも謀略の地に」/ジョン・ル・カレ(早川書房)/¥2,530(税込)

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COOPERATION

文喫 六本木 店長/ブックディレクター 中澤 佑

2017年日本出版販売入社。企業内ライブラリーや商業施設のブックディレクションを手掛け、2024年より文喫 店長として企画選書や展示など、本のある空間プロデュースを行う。

Edit : Junko Itoi

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