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慌ただしい日常から一瞬で別世界へと誘ってくれる映画。毎月たくさんの作品が世に送り出される中で、BRUDERの読者にぜひ観てほしい良作を映画ライターの圷 滋夫(あくつしげお)さんに選んでいただきました。
『オデュッセイア』/9月11日(金)公開
原作は古代ギリシャの吟遊詩人ホメロスが紀元前8世紀頃に詠んだとされる英雄譚です。トロイア戦争に勝利した英雄オデュッセウスを主人公に、さまざまな困難を乗り越えながら10年にも及ぶ故郷への帰還が描かれます。すべての物語の原点とも言われ、「勇者が旅をしながら怪物や魔女を倒し、困難に打ち勝って成長しながら目的を果たす」という基本構造は約2800年の時を経た今も、RPG(ロールプレイングゲーム)や冒険ファンタジー映画に直接受け継がれています。

クリストファー・ノーラン監督は「自分のどの作品にも“オデュッセイア”が息づいている」と語り、念願の映画化にあたって、16歳の頃からの夢だった史上初の全編IMAX撮影を実現。圧倒的なスケールの作品を完成させました。マット・デイモン、トム・ホランド、アン・ハサウェイ、ロバート・パティンソン、ゼンデイヤなど豪華キャストに加え、スタッフにもアカデミー賞受賞者やノミネート経験者が集結。西洋文学の礎となった古典がノーランならではの映像表現によって、かつてないほどの革新的な作品へと生まれ変わっています。また、世界的な人気ラッパーのトラヴィス・スコットが吟遊詩人役で出演し、音楽家/プロデューサーのジェイムス・ブレイクや本作の音楽監督ルドウィグ・ゴランソンと共作したエンドロール曲にも注目です。

本作は3大陸6カ国に及ぶロケを敢行。広大なセットをはじめ、古代ヴァイキングの巨大な船や木馬、巨人、群衆まで、これまでのノーラン作品と同様に実写にこだわって撮影されました。そこにVFX(Visual Effects=視覚効果)を組み合わせ、リアリティのある映像を追求しています。こうして実現した雄大で壮麗な神話の世界を舞台に、手に汗握るバトルや迫力ある群衆シーンが繰り広げられます。特に印象的なのが、物語の前段にあたるトロイア戦争での激しい戦闘シーンです。周囲が勝利に沸くなか、それとは対照的なオデュッセウスの内面へと深く分け入り、重厚な人間ドラマへと展開していきます。「ここでそれを描くのか!」という構成の妙も味わえるでしょう。

ノーラン作品では、スペクタクルで斬新な映像にいつも驚かされますが、その本質は常に人間が抱える葛藤や苦悩です。極上のエンターテインメントと深い芸術性が共存するからこそ唯一無二の作品となり、いつまでも人々の心に強く残るのではないでしょうか。『オッペンハイマー』『インセプション』では人類の終末や愛する人の死に対する罪悪感、『ダンケルク』『インターステラー』では時間の経過に対する焦燥感、『ダークナイト』トリロジーでは人を救うことと暴力の狭間で陥る孤独と狂気が描かれました。そして『オデュッセイア』には、これまでの作品で描かれてきたテーマが凝縮されています。壮大なスペクタクルの先に待つ、人間ドラマこそ、大きな魅力と言えるでしょう。本作はノーラン作品史上最高のオープニングを記録し、世界中で熱狂の渦を巻き起こしています。

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『オデュッセイア』 https://odyssey-film.jp
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圷 滋夫(あくつ・しげお)/映画・音楽ライター
映画配給会社に20年以上勤務して宣伝を担当。その後フリーランスになり主に映画と音楽のライターとして活動。鑑賞マニアで映画とライブの他に、演劇や落語、現代美術、コンテンポラリーダンス、サッカーなどにも通じている。
Edit : Yu Sakamoto








