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砂漠の果てで待つのは天国か地獄か 『シラート』で味わう極限の体感

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慌ただしい日常から一瞬で別世界へと誘ってくれる映画。毎月たくさんの作品が世に送り出される中で、BRUDERの読者にぜひ観てほしい良作を映画ライターの圷 滋夫(あくつしげお)さんに選んでいただきました。

『シラート』/6月5日(金)公開

“シラート”とは何か?映画の冒頭でその意味が「天国と地獄の上にかかる細い橋」と示されますが、まさにこの作品を象徴する言葉で、二つの世界が隣り合う極限のロードムービーと言えるでしょう。プロデューサーとして参加した巨匠ペドロ・アルモドバル監督が「スペイン映画の新しい夜明け」と語るように、本作は従来の映画のイメージを軽々と超えていきます。映画を“鑑賞”するのではなく、映画館の座席に身を沈めて作品世界に入り込み、五感をフル稼働して“体感”するのです。そうすれば、誰もがこの新たな映像体験の衝撃を味わえるでしょう。

失踪した娘を探すため、父と息子は彼女が好きなレイヴ(夜通しハウスやテクノ・ミュージックを流し、参加者が自由に踊り明かす音楽イベント)に参加します。しかし娘は見つからず、彼らはそこで知り合ったレイヴ好きのグループとともに、次の会場を目指して車で砂漠を進みます。物語の骨子はシンプルで、話の展開によって観客を引きつけるような作品ではありません。それでも普通のおじさん然とした父親と素直で優しい犬好きの男の子が、日常生活では決して出会うことのなかったであろう自由気ままに人生を謳歌する人々と出会い、少しずつ交流を深めていく様子には、ほほえましく心が温まります。

地の果てのような砂漠に巨大なスピーカーが立ち並ぶシュールな光景の中に、四つ打ちの重低音やサイケデリックなシンセサイザーのリフレインが響き渡り、詩的でトリッピーな非日常へと誘われます。一行が道なき砂漠をなんとか進むにつれて、終末感さえ漂う異世界のような風景が広がり、思いもよらない驚愕の出来事が次々と起こります。予測不能の極限状態の中で彼らを待ち受けるのは天国か地獄か。究極の選択に動悸は高まり、あまりの衝撃に呆然と見つめるしかなくなるのです。

本作でもう一つ重要なのは、背景に散りばめられた戦争の気配です。駆けつけた軍の避難命令によってレイヴは強制的に中止され、車のラジオからは混沌とした世界情勢が流れるシーンや、理由は描かれないものの、父子が同行するグループには片腕や片足を失った者もいます。実際に、本作の舞台となったモロッコとモーリタニアにまたがるサハラ砂漠では、政府と独立を目指す武装勢力によって領有権をめぐる紛争が続いており、その暗い影が通奏低音のように静かに鳴り響いているのです。

監督を務めたのはパリ生まれのスペイン人で、モロッコ在住歴のあるオリベル・ラシェ。長編第4作となる本作は、2025年のカンヌ国際映画祭では審査員賞、作曲賞ほか4冠を達成し、今年のアカデミー賞では音響賞と国際長編映画賞にノミネートされました。作中にはかわいい犬も登場し、カンヌ4冠にはパルムドッグ賞も含まれています。さらに、スペインのアカデミー賞とも称されるゴヤ賞では最多6部門を受賞するなど、数々の国際映画賞で高く評価されています。ぜひ、音響設備の整った映画館で鑑賞を。いえ、“体感”することをおすすめします。

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『シラート』 https://transformer.co.jp/m/sirat/



圷 滋夫(あくつ・しげお)/映画・音楽ライター

映画配給会社に20年以上勤務して宣伝を担当。その後フリーランスになり主に映画と音楽のライターとして活動。鑑賞マニアで映画とライブの他に、演劇や落語、現代美術、コンテンポラリーダンス、サッカーなどにも通じている。

Edit : Yu Sakamoto

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