
目抜き通りに伸びる一本のわき道。「東京」をぶらぶらと散歩すると、どんな出会いがあるのか。今回は中目黒駅で電車を降りた。(BRUDER編集部・合田拓斗)
中目黒「トラベラーズファクトリー」
無二の親友のシンガポール行きを聞いたのはつい先日のことだ。「家族旅行だよ」という。初めての海外は一緒の約束だった、とわたしは抗議した。「お土産買ってくるね」。彼がマーライオンに感動するとき、わたしは会社にいる。腹痛にでもなれ、と思った。

3月中旬、中目黒には冬風が吹いていた。高架下からの景色は右も左も都会的だ。対して、窮屈な駅前にはいつも信号待ちの列がある。背筋の伸びるような、小綺麗な服を着た人ばかりだった。スターバックスのカップを持つ人は街の象徴のように見えた。

喧噪を背に目黒川まで歩く。川沿いにはまだ花がない。丸裸の木々に近づくと、骸骨の腕のような枝に、小さな蕾が見えた。ぷくぷくとした膨らみは春の予感を包んでいる。

目黒川沿いは洒落た個人店も多い。目を引く外観のデザインに、「なんの店だろう?」とつい中を覗いてみたくなる。異国でウィンドーショッピングをするような楽しさ。ふと、シンガポールの街角を想像してみたりした。

山手通りを挟み反対側の路地裏へ。駅の方に歩いていると、風変りな建物を見つけた。染みの浮いたコンクリート壁にはところどころヒビがある。傷の入った木の看板は招き猫のように愛らしい。なにより、「TRAVELER’S」の文字が目に留まった。

築60年になる建物は、元はお菓子の紙箱を作る工場だったそう。経過した年月が醸す無骨な雰囲気はそのままに、手作りらしい木製のラックや椅子を置いてリノベートした。積み重なるように物の並ぶさまが、やんちゃなオヤジの遊び場のようにも見える。

「トラベラーズファクトリー」は、“旅するように毎日を過ごすための道具”というコンセプトを掲げるブランド・トラベラーズカンパニーの旗艦店。看板商品のノートを軸に、文房具や雑貨等を取りそろえる。創設に携わったプロデューサーは、沢木耕太郎の『深夜特急』を手に、バックパッカーをした経験もある旅好きだ。
広報担当の中村雅美さんは、「旅先で感じる高揚感ってありますよね。普段は見過ごすような風景が気になって、カメラを構えたり、感動したりする。そんな胸の高鳴りを、日常でも感じられるように」と店に込めた思いを話す。

ブランドの理念を体現するのが『トラベラーズノート』だ。牛革を用いたカバーは、使うほどにヴィンテージのような渋さが際立つ。多様なリフィルを組み合わせ、自分だけの一冊を作り上げる。「10年も使うと、革の色味や育ち方が全然違う。愛着がわいて、相棒のような存在になる」と経年変化も味になる。
文章も写真もスマホ一つで完結する時代になった。一方で、忘れられない思い出とは、“手の垢”がついたものだったりする。「デジタルの写真って意外と見返す機会がなかったりする。見返したくなるのはアナログの良さかも」。ノートの使い方は十人十色。プラモデルで遊ぶような、カスタマイズ性の高さに童心がくすぐられる。

非日常の切れ端は、実は毎日の風景にも隠れているものだ。「日々を旅と捉えてみると、些細なことも記録したいと思える。忙殺される毎日のなかで、ノートには自分の世界が広がっているんです」。大切なのは、“気づく”ための心構えなのかもしれない。

帰り道、歩き慣れた通りに見知らぬ路地が伸びていた。暗がりに潜むのは旅情だった。ようやく気持ちの整理がついた。友人に、今なら心から言える。「良い旅を!」
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東京の道を曲がる
Edit & Text & Photo : Hiroto Goda









