
慌ただしい日常から一瞬で別世界へと誘ってくれる映画。毎月たくさんの作品が世に送り出される中で、BRUDERの読者にぜひ観てほしい良作を映画ライターの圷 滋夫(あくつしげお)さんに選んでいただきました。
『We Live in Time この時を生きて』/ 6月6日公開
才能あふれるシェフのアルムート(フローレンス・ピュー)と、食品メーカー勤務のトビアス(アンドリュー・ガーフィールド)。本作は、2人が偶然出会って恋に落ち、娘が生まれて幸せな家庭を築き、そして別れが訪れるまでを描いた物語です。

映画冒頭でアルムートの病気が再発し、余命が少ないことが判明します。限られた命と向き合う2人が、どのように時を過ごしたのかが丁寧に綴られていきます。ジャンルで言えば“余命もの”ですが、よくある涙を誘うあざとい演出は一切なく、笑いにあふれています。それもコメディのように意図したものではなく、何気ない日常の微笑ましい出来事が全編に散りばめられ、作品全体が明るく爽やかな空気に包まれています。そこに、まさかの出会いから付き合うまでのドタバタ劇や驚きの出産など、非日常のドラマチックで感動的な瞬間が織り込まれることで、物語に温かみと奥行きが生まれています。

まるで隠し撮りされたものを見ているかのような自然体の演技が本当に魅力的で、主演2人の存在自体が本作の最大の見どころと言っていいでしょう。自由奔放に今を生きるアルムートは、大胆さとキュートさを兼ね備え、口の悪ささえも可愛く感じられます。何事にも慎重で生真面目なトビアスは、優しさと繊細さの中に強さが垣間見えて、しっかりとアルムートを受け止めます。ポジとネガのような凸凹コンビはぶつかり合いながらも、何度も訪れる困難に立ち向かいます。そのたびに丁寧に話し合い、未来に悲観的にならず、残された日々を慈しむように過ごす姿は、私たちが日々を幸せに暮らすためのヒントが隠されているように感じます。
主人公たちの親やガソリンスタンドの店員、アルムートのレストラン仲間や主治医など、2人を取り巻く人たちも温かく人間味にあふれていて、思わずほっこりするでしょう。ちなみにジョン・クローリー監督は、ガーフィールドが初主演した傑作『BOY A』(2007)でも、彼の魅力を存分に引き出しています。

演出面で最も特徴的なのが、時系列を入れ替えた構成です。過去と現在が何度も交錯することで最初は戸惑いますが、アルムートの外見や娘の有無、相手の呼び方や単語一つで、いつの出来事なのかが自然と分かるように周到にエピソードが配置されています。場面をシャッフルする構成には監督の意図があり、時系列通りに描いた場合の、終盤に向かって重くなる死への悲しみを避けるためでしょう。

また近年のSF映画や坂元裕二作品でもたびたび見られるように、過去と現在が重なり合って複数の出来事が同時に存在するという、量子力学的な視点で捉えることもできるでしょう。タイトル「We Live In Time」のTimeに冠詞が無いのは、それを表現して「私たちはさまざまな時間軸に生きている」という意味かもしれません(邦題は“この”が入って意味が変わりますが…)。
もしかすると本作は、トビアスが回想した記憶を映像として表現した作品なのかもしれません。いずれにしても、朗らかに笑いながら清い涙に包まれる、ハンドタオル必携の珠玉の人生賛歌です。
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『We Live in Time この時を生きて』 https://www.wlit.jp/
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圷 滋夫(あくつ・しげお)/映画・音楽ライター
映画配給会社に20年以上勤務して宣伝を担当。その後フリーランスになり主に映画と音楽のライターとして活動。鑑賞マニアで映画とライブの他に、演劇や落語、現代美術、コンテンポラリーダンス、サッカーなどにも通じている。
Edit : Yu Sakamoto








