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アカデミー賞を獲得した“言葉のない”アニメ映画『Flow』

©Dream Well Studio, Sacrebleu Productions & Take Five.

慌ただしい日常から一瞬で別世界へと誘ってくれる映画。毎月たくさんの作品が世に送り出される中で、BRUDERの読者にぜひ観てほしい良作を映画ライターの圷 滋夫(あくつしげお)さんに選んでいただきました。

『Flow』/ 3月14日公開

今年のアカデミー賞長編アニメーション部門を制し、ラトビア共和国に初のオスカー像をもたらしたのは、ギンツ・ジルバロディス監督の『Flow』です。メジャースタジオの『インサイド・ヘッド2』や『野生の島のロズ』、オスカー常連スタジオの『ウォレスとグルミット 仕返しなんてコワくない!』など、多くの強敵を抑えた受賞です。本作の主役は動物(人間は登場しない)で、台詞やナレーションも一切ないのが特徴です。登場する動物たちを擬人化せずに、リアルな生態や動きを描写しながら、ちょっとした仕草や表情の変化(瞳は語る!)、鳴き声のニュアンスで個性や感情をしっかり伝え、イマジネーションを刺激してくれます。

物語は大洪水に襲われ沈みゆく世界で、動物たちが懸命に生き抜こうとする姿を描いています。この「ただ生きる」というシンプルなテーマだからこそ、よりエモーショナルに胸を打たれます。主人公は一匹の黒猫で、流れてきた船によじ登ると、そこにはすでに何種類かの動物たちがいました。群れるのが苦手な猫も、この状況では自分だけで生きていくのは難しく、少しずつ他の動物とコミュニケーションを取って交流を深めます。こうして何度も自然の脅威と予期せぬ危機に直面しながら、決死の冒険は続きます。

動物たちのリアルな動きが本当に可愛くて、特に猫を飼った経験がある人なら仕草や行動に「あるある!」と思わず顔がほころぶでしょう。移り行く風景の描写も美しく、特に水の表現はアッと息を飲むほどです。揺らめく水面や飛び散るしぶき、水中の景色、迫り来る濁流と、多様に変化する水には命の根源的な輝きが宿っています。逆に光の表現には死を感じさせるスピリチュアルなものがあり、それが頂点に達する場面では、不思議な浮遊感に包まれる稀有な映像体験を味わえるはずです。さらに船が進む水平の動きの中に、猫が高い場所に駆け上がり落下する垂直の動きを繰り返し差し込み、作品全体に視覚的なリズムを作っています。それらを捉える斬新なアングルと、滑るような臨場感あふれるカメラの動きに、胸がドキドキ高鳴ります。

「人間は登場しない」と書きましたが、誰もいない家や捨てられた船、空に伸びる石の塔など、人の気配がする物が残されています。ただ何の説明もないので、人類は滅亡した?とか、船はノアの方舟?などと想像を掻き立てられます。美しい風景や自然の脅威を描くだけではなく、どことなくシュールで謎に包まれた、ミステリアスな空気感が漂っているのも、本作の奥深い魅力のひとつでしょう。

見方によっては動物たちを人間に置き換え、人種や国籍の違い、様々な社会問題・環境問題として考察することもできます。それでも本作は、動物たちのありのままの姿を見つめ、冒険の行方をハラハラしながら追いかけ、一喜一憂するのが一番の楽しみ方です。最後には誰もがなにかに「生かされている」ことを実感し、いつの間にか優しい気持ちで癒されているでしょう。猫だけでなく犬やキツネザル、カピバラまで、きっと愛おしくて抱きしめたくなっているはずです!

本作はアカデミー賞のほか、アニメ界で最も歴史と権威ある映画祭、アヌシー国際アニメーション映画祭で審査員賞・音楽賞など4部門を受賞、さらに世界の20以上の映画祭で、多くのノミネート/受賞を果たしています。

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『Flow』 https://flow-movie.com/



圷 滋夫(あくつ・しげお)/映画・音楽ライター

映画配給会社に20年以上勤務して宣伝を担当。その後フリーランスになり主に映画と音楽のライターとして活動。鑑賞マニアで映画とライブの他に、演劇や落語、現代美術、コンテンポラリーダンス、サッカーなどにも通じている。

Edit : Yu Sakamoto

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