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下北沢の“洋館のアトリエ”は喫茶店 物語に宿る居心地

目抜き通りから伸びる一本のわき道。不意の出会いに心を引かれ、思わず“道を曲がった”経験はあるだろうか? 首都「東京」をぶらぶらと散歩すると、どんな出会いがあるのか。今回は小田急線下北沢駅で電車を降りた。(BRUDER編集部・合田拓斗)

下北沢「ブリキボタン CAFE&DINING」

物語の筋が好きなわけではないのに、何度も手に取る本や映画がある。共通点はお気に入りの“絵”があることだ。例えば曇天の中を走る車や、早朝に行われる葬式、人けのない氷湖。まぶたが落ちるほど退屈でも、また見たい気がしてくる。代替できない居心地があるのだ。

好きな街にも似たところがあるかもしれない。肌に空気が馴染む場所へは足を運びたくなる。近い感覚を持った人たちが集まって文化が生まれる。下北沢にいる人たちは、住民も観光客も「シモキタっぽい」と思った。

東口を出て正面の商店街に入ると、早速いくつかの古着屋が目に入る。狭い道に押し込まれるように並んだ店々の玄関から商品がはみ出ている。次から次に曲がり角が現れ、一つの路地が別の路地へとつながっていく。

道をいくつも折れた末に井の頭線の踏切に着いた。鎌倉通りを進んで1番街に入る。商店街の果てまで行くと劇場「スズナリ」の看板が見えた。

記憶の中では、すれ違った人は皆、ビンテージのシャツにジーンズという格好だった。ギターも背負っていたかもしれない。いや、きっとそんなことはないのだろうが。それだけ、街のカルチャーに馴染んだ人が多かった。

スズナリから茶沢通りを進んで高架下を抜けた。南口商店街の端から入って駅までの道を行くと、2階部分だけがレンガ調の建物が見えてくる。周囲とは趣の異なる店構えに惹かれ、薄暗い階段をのぼった。

すりガラスのはまった扉を開き、わずかな照明が差す店内へ。2012年オープンのカフェ&ダイニング「ブリキボタン」のコンセプトは“洋館のアトリエ”だという。壁の塗装や飾り付けは手作り。席ごとに画家や時計職人、洋裁職人と違った物語を感じられる。

類のないコンセプショナルな店だが、オーナーは新進気鋭のアーティスト…ではなく元サラリーマンだ。松本健児さんは元々営業の仕事をしており、喫茶店の常連客だった。時期はカフェブーム真っただ中の2000年代。考えごとや、仕事の打ち合わせの場にカフェを選んだ。何度も足を運ぶうちに、「自分でやってみたい」と思うようになった。会社はスパッと辞めた。

「好きだった喫茶店を、自分の手で作りたいと思った。人々の居場所になるような店を。コンセプトと内装を充実させて、非日常的な空間を目指しました」。料理の知識もほとんどない中でのスタート。従業員と力を合わせ、一つずつ形作ってきた。

創業から13年、いまや料理は内装に劣らない“ウリ”になった。ランチタイムに提供されるケチャップたっぷりのオムライスや、昔ながらのメロンソーダ。ディナーでは、ピザやチーズフォンデュといったヨーロッパの料理と、極上のワインを味わえる。

昼間、芸術家の作業場らしかった店内は、夜闇ではオトナの秘密基地のように映るかもしれない。「コンセプトは私自身もお気に入り。この個性的な空間が好きだと思ってくれる人に、たどり着いてもらいたい」。物語の入口は開いている。

店を出ると都会の喧噪が戻ってきた。駅まで歩きながら、少し後ろ髪を引かれる思いがした。

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東京の道を曲がる

Edit & Text & Photo : Hiroto Goda

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