友人からでも、家族からでも、書評でも、課題図書でもない「オススメの本」を読んだことはありますか? 現実と少し距離を置く“小説の世界”への入り口は、時に不意の方が新鮮で心踊りそう。東京・六本木の本屋「文喫 六本木」のブックディレクター・及川貴子さんにBRUDER読者をイメージした一冊を選んでもらいました。
「草枕」/夏目漱石
家時間が増える冬は、コタツに寝転がって、名作と呼ばれるどっしりとした本を読みたくなります。今回ご紹介するのは、夏目漱石の初期の名作『草枕』。冒頭部分を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。
―――山路を登りながら、こう考えた。知に働けば角が立つ。情に掉させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい――
ある程度年齢を重ねたからこそ、まったくその通りだなあとうなずけます。その先も、思わず「漱石先生……!」と呼びかけたくなるような、洒落っけと含蓄(がんちく)たっぷりの言葉が続きます。
―――人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向こう三軒両隣にちらちらする唯の人である。唯の人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりもなお住みにくかろう――
最初の2ページだけでも読む価値充分!ですが、興味深い芸術論や春の温泉地ののどかさ、人間観察の妙、個性的なキャラクターなど読みどころの多い作品です。「璆鏘(きゅうそう)」や「澆季溷濁(ぎょうきこんだく)」など日常で見ない言葉も多いですが、注釈もありますし、別に読み飛ばしたっていいのです。主人公のように、気の向くまま読んでみてください。
「草枕」夏目漱石(新潮社)/¥473(税込)
- COOPERATION
-
-
文喫 六本木 ブックディレクター 及川貴子
2018年日本出版販売入社。2021年4月より文喫 六本木のブックディレクターとして、企画選書や展示イベント企画、本のある空間のプロデュースなどを行う。
-
文喫 六本木
文化を喫する、入場料のある本屋。人文科学や自然科学からデザイン・アートまで約3万冊の書籍を販売している。閲覧室や研究室、喫茶室を併設し、企画展も定期的に開催。普段あまり出会うことのない新たな興味の入り口となっている。
住所:〒106-0032 東京都港区六本木6-1-20 六本木電気ビル1F
営業時間:9:00~20:00(L.O. 19:30)/不定休
https://bunkitsu.jp/
Edit : Hiroto Goda